これまでアップル製iPodの独壇場だった携帯音楽プレーヤー市場。かつて世界を席巻したソニーのウォークマンは長らくiPodの後塵を拝してきたが、最近、日本国内でその存在感を増している。

 調査会社BCNによれば、8月の月間販売台数シェアはウォークマンが47.8%となり、44.0%のiPodを抜き去った。2001年にiPodが発売されて以来、初めてのことである。

 もっともこの逆転劇には訳がある。最大の理由は、毎年9月に行われるiPodのモデルチェンジだ。今年で6年目を数え、いまや夏の恒例行事と化している。「顧客もよく知っており、買い控えが起こっている」(道越一郎・BCNエグゼクティブアナリスト)。つまり、8月はiPodの販売が鈍る月なのだ。加えて、iPod機能を搭載したiPhoneやiPadに顧客が流れている影響も少なくない。

 そして、この間隙を突いたウォークマンが月間で首位の座に就いたというわけだ。もっとも、「新型iPodが発売になれば、シェアは再び逆転するだろう」と複数の関係者は指摘する。

 というのも、じつはこの逆転劇、昨年の8月にも起こっている。ただし、ウォークマンが逆転したのは2週間のみで、新型iPodが発売された途端iPodのシェアは7割近くになり再び逆転した。今年もこれと同じ構図というわけだ。

 とはいえ、昨年に比べシェアの逆転期間は倍増し、通常月のシェアもiPodの5割強に対し、ウォークマンは2年前の2割強から約4割とその差を縮めつつある。

 ソニーは自社開発の高級イヤホンを搭載し、音質のよさを強調する。また、液晶画面に歌詞が表示される機能や、一部の機種ではパソコンを介さずに音楽を録音できるなど、iPodとの差別化を図ってきた。これらの戦略が功を奏し、かつてのウォークマン愛好家や若年層を取り込んでいる。

 そして、9月1日に発表された新型iPod。ラインナップはこれまでと同様iPod TouchとiPod nano、iPod shuffleの3機種だ。人気のiPhone、iPadと同じインターフェースで通信回線契約が不要のiPod Touchに予約が集中している模様だ。また、価格も下がっており、「新型iPodは売れそうだ」(大手家電量販店)という。

 また、世界で1億6000万ユーザーを抱えるiTunesに音楽ソーシャルネットワーク機能が加わり、好きなアーティストや友人たちとコミュニティをつくって楽曲情報を交換するサービスが始まった。

 この世界はデバイスに加え、プラットフォームの使い勝手がカギを握る。ソニーはクラウドを使って数百万の楽曲にアクセスできるようになる予定だが、それでiTunesの牙城をどこまで切り崩せるか。シェアを奪うには、さらなるプラットフォームの魅力向上が必要だろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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