「新しい会計基準を導入すると、金利の低下などによっても純資産が減少することになる。場合によっては会計上、債務超過に陥る会社が出てくるかもしれない」(大手生命保険幹部)

 保険版の国際会計基準(IFRS)の全貌が明らかになるにつれて、財務体質が弱い保険会社にとっては非常な脅威となる可能性が明らかになってきた。

 7月30日に国際会計基準審議会(IASB)は保険契約に関する新たな会計基準の公開草案を発表。これまでの議論に沿ったかたちで、徹底した「時価主義」を導入することが提案された。

 従来、時価評価するのは資産として保有している株式くらいだったが、公開草案では国債などの債券、企業への貸し付けも時価で評価。さらには将来払う予定の保険金などについても保険負債として時価評価する。

 時価評価による脅威は二つある。一つは金利低下の影響だ。金利低下で運用が低迷するため保険負債は増加する一方で、資産に関しては国債のような商品は時価が増加するが、株式や不動産に関しては時価が減少する。日本の保険会社の場合、差し引きで純資産が減少する傾向が強い。

 もう一つはIFRS移行時の「逆ザヤ」への対応だ。日本の生保は過去に高い予定利率の保険を大量に販売しており、現在のような低金利下では思ったように運用ができずに逆ザヤを生んでいる。

 IFRSではこの逆ザヤについて、将来分もすべて一気に貸借対照表に組み込まなければならない。「大手クラスだと数千億円の負債増加となる生保もある」(同)といい、IFRS導入に加えて株安がいっそう進めば、債務超過に陥る生保が出てもおかしくはないという。

 こうした草案に対して、「銀行は預金や債券については簿価で扱えるのに、保険会社は基準が厳し過ぎる」(同)との恨み節も聞こえてくるが、保険会社のあいだでは実際には諦めムードが漂っている。

 世界で統一的に使える会計基準を導入するという流れは逆らいがたく、さらにEUが先行して時価評価を取り入れた新たな規制「ソルベンシー2」を導入する予定であり、このままなにもしないと日本は世界から完全に取り残される可能性があるからだ。

 そこで保険各社は、IFRS対応として株式の売却や、リスク管理体制の抜本的見直しを進めている。生保では大同生命保険が、資産と負債を総合管理するALM管理の部署を設置したほか、3大損保グループもそれぞれリスク管理を強化している。

 保険版IFRSは早ければ2015年から導入される可能性がある。財務状況が弱い保険会社にとっては、待ったなしの状況に突入している。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)

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