反抗期を乗り越える「選択肢の提示」

 このように本書には、私自身が子ども時代に経験していないため知らなかった子育てヒントが無数にあり、大変参考になる。しかし私が本書を手にとった最大の理由は、甥との今後の関係性について悩んだからである。上の甥は現在11歳。難しい思春期を迎え始めている。あるとき私は2人の甥を連れて某テーマパークへ行ったのだが、上の甥が「ここで遊びたくない」と言い出した。このとき私は、初めての彼の大人っぽい反抗に戸惑い、「そんなこと言わずに遊びなさい!」と押さえつけようとしてしまった。そのとき彼が11歳ながら見せた、何とも屈辱に満ちた表情は今も忘れられない。このままでは甥との関係性が崩れてしまう……。恐れた私は、今度どうしたらいいかを探るべく、『一流の育て方』を熟読したのだ。その結果、指針となる教えを多く見つけることができた。

 たとえば“選択肢を示し、最終選択は子どもに任せよ”というもの。本書は、たとえその選択が望まない方向に働いたとしても「自分で選んだものなら途中でやめたとしても、努力不足や責任感、慎重に判断することの重要さを教えることができる」と述べている。おかげで、これからは甥が「それはしたくない」と言ったとき、「じゃあどうしたい?」と選択肢を示して彼自身に選ばせることが必要なのだな、と気づくことができた。

 また“小さいころから「何でも話せる相手」になる”という項目も響いた。子どもが思春期に入ったとき、にわかに親づらをさげて説教をしてもむなしく響くだけ。そうなる前に「自分の話を受け入れてくれる」「理解し合えている」という信頼関係を構築することがとても大切だと、本書は説いている。私は親ではないが、甥が大きくなってもいろいろな意見や感情を話し合える、そんな関係でいられるよう、本書の説く「子どもに対して権威的にふるまわず、子どもの世界を理解しようとする柔軟な姿勢を持つ」ことを心がけようと思った。

 姉に聞くと、11歳になった上の甥は、最近何かにつけて「I don’t care(どうでもいい)」と言うようになったそうだ。「これをしないと後で困るよ」と言っても「I don’t care」、「それをするのはこんなに大変だよ」と言っても「I don’t care」。そんなときはどう対処するのか聞くと、本書にも書いていた通り「選択肢をいくつか示し、決めさせる」のだそうだ。もちろんその選択肢の出し方にはコツがいるようだが、子どもは自分の主張に耳を貸してもらえたことで「尊重されている」と感じ、親との関係も必要以上にこじれることがないようだ。

 このようなわずかな“子育てもどき体験”を経て、私は“尊重”の大切さを身に染みて感じるようになった。しかし、ただ子どもの主張や意見を取り入れればいいわけでなければ、何でも好きに決めさせればいいわけでもない。どこまで尊重するか、絶対に必要なことをさせるためにはどのような提案の仕方をするかなど、その判断はシーンによって実に様々で微妙で難しそうだ。だからこそ私は、今後も事あるたびに本書を読み返し、甥に対する自分自身の在り方を確認していきたいと思っている。
(文/山本奈緒子)