「できること」ではなく「努力すること」を褒める

本書は、コンサルタントとして、アメリカの他に、欧州、北欧、アジアといった様々な国で活躍しているムーギー・キム氏と、グローバルに活躍する4人の子どもを育てられたミセス・パンプキンの子育て観、そしてトップクラスの大学に入ったのみならず様々な分野でリーダーシップを発揮しているエリートたちのアンケート、この2つを軸に構成されている。そしてその子育て観は、日本で書かれた本にもかかわらず、私がアメリカで見聞きし、感心したものと共通する点が多い。

 たとえば“「正しいほめ方」で伸ばす”という項目。「努力をほめられた子は、何回テストを重ねてその成績が悪くとも、粘り強く問題を解こうと努力を続けた」とあるが、これも私が姉夫婦から甥のシッターをするうえで、要望されたことの一つである。

 決して贔屓目ではなく、上の甥は何事もかなり吸収が早い。大抵のことは1回教えるとすぐできてしまうため、私はつい「すごいね、何でもできるね!」と褒めていたのだが、このとき言われたのが「“できること”ではなく“努力すること”を誉めてほしい」ということだった。
 結果を誉めていると、すぐに結果を求めるようになり、努力をしなくなってしまう。実際甥は、一回で上手くできないと癇癪を起こしてしまうところがあり、あるときなどは、日本で初めて体験した折り紙が見本のように綺麗に折れなかったことで、癇癪を起してハサミで切り刻んでしまったのだ。しかし両親がコツコツと努力を誉めることを続けた結果だろう。今では日本語の習得もピアノの練習もスポーツも、何事も当たり前のようにコツコツ取り組むようになっている。

 また“視野を広げ、知的好奇心を刺激する”という項目。日本では子どもが欲しがるままにオモチャを贅沢に与えることは、決して良しとされてない印象を受けていた。が、アメリカでは子どもにとにかくたくさんオモチャを買い与える。なぜなら、たくさんのオモチャに触れればそれだけ知識が増える、という考え方だからなのだ。
本書内に掲載されていた慶應義塾大学生のアンケートに、「高校に行っている時点では、海外という選択肢すら思い浮かばなかったので、そのような視点を両親が与えてくれたらよかったなぁと思います」というコメントがあったが、子どもが視野を広げるための情報を提供することは、大人の大きな役目の一つと言えるだろう。このオモチャエピソードは、その情報提供のアメリカらしさを感じた出来事であった。

 そして私がもっとも興味を抱いたのが、“「報酬」を与えて勉強させてもいい?”という項目だ。著者のムーギー氏自身、「塾で一番になったら1万円」というインセンティブ制度で俄然やる気が起きた、と振り返っているが、これは一見、私が甥の両親から「しないでほしい」と要望された“取引”に当たりそうだ。しかしムーギー氏のご両親は、“取引”で安易に子どもをコントロールしようとしたのではない。ここには、子どものモチベーションを高めることで“勉強を習慣づける”という大きな目的があったし、さらに「1番になるという“目標”を達成する」とシステム化したことも、有効だったのではないだろうか。

 下の甥は6歳になっても食事中、じっと椅子に座っていることができなかった。どんなに座ることの必要性やマナーを説いても、まったく聞かない。すると彼の両親は、ここでポイント制なるものを導入したのだ。「椅子から立つとマイナス5ポイント」、「口にものを入れたまま喋るとマイナス5ポイント」などと。甥の場合はとくに報酬を設けたわけではなかったが、これが驚くほど効いた。ちょうどその頃、数字に興味を持ち始めていたことも大きかっただろう。ピタッと席を立たなくなっただけでなく、大人が用事で席を立ったりすると「マイナス5ポイント!」と注意までするようになったほどだ。ミセス・パンプキンは「遠い将来のことを話してやるだけではどうにも動かない子もいる」と述べていたが、子どものモチベーションを高めるためには、大人側も工夫をする必要があるのだと感じた。