日本とインドのEPA(経済連携協定)が大筋合意に達した。貿易や投資の自由化を包括的に進める協定で、10年間で両国間貿易額の約94%で関税を撤廃する。

 交渉開始から3年半。難航した交渉が合意に至ったのはインドの譲歩が大きい。インドが要望した「ジェネリック薬の市場参入」は日本が国内産と平等の扱いを約束することで、「看護師などの受け入れ」は継続交渉で、納得した。

 一方、日本の要望である自動車部品などへの関税率は漸次減少し10年後までに大半が撤廃される。

 インドが譲歩した要因は複数ある。第1に新興大国として競う中国への対抗だ。アジア広域の自由貿易協定はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を中心に動くが、インドはメンバー外。主要メンバーの中国への対抗上、関係国とのつながりを強化したいのだ。この1年でASEAN、韓国、そして日本との協定をまとめている。

 第2にインドの自動車産業の成長促進だ。トップ企業のマルチ・スズキは日本のスズキとインド政府の合弁。「雇用創出に加え、輸出での外貨獲得も期待される。部品関税の低減や投資規制の緩和は同社を含めた自動車産業の強化につながる」(久保研介ジェトロ・アジア経済研究所研究員)。

 第3に今春交渉を開始した日本との原子力協定の締結推進だ。核武装するインドに抵抗感の強い日本の世論を和らげるためEPA締結で関係を深めたい考えもあるだろう。インドの戦略思考によって実現したEPA合意を日本もしたたかに活用したい。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪 亮)

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