民主党代表選挙に勝利し、改造内閣をスタートさせた菅直人首相ですが、発足直後から国内外にさまざまな政治課題を抱え、その船出は前途洋々とは行かないようです。いまや、日本の存在感は、世界はおろか、アジアにおいても希薄化が懸念される事態となっています。
そんな中、9月23日、菅首相は国連ミレニアム開発目標(MDGs)サミットで演説し、開発途上国における母子保健・三大感染症対策(エイズ、結核、マラリア)などの保健政策や、教育支援に2011年から2015年までの5年間で、総額85億ドル(約7200億円)の支援を行なう「菅コミットメント」を表明しました。
すっかり忘れ去られた
「鳩山イニシアチブ」
どこかで似たような話を聞いたと思えば、ちょうど1年前のいま頃、政権交代を実現した鳩山由紀夫前首相が、国連気候変動首脳級会合において「2020年までに、温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減する」という演説を行ない、2010年から2012年までの3年間に150億ドル(約1兆2800億円)の途上国支援を環境対策で行なう「鳩山イニシアチブ」を表明していました。
目まぐるしく世界の情勢が移り変わる現代においては、1年という時間は本当にあっという間で、鳩山前首相の国連演説もいまとなっては遥か忘却の彼方です。もっとも、昨年のいま頃は、京都議定書に代わる新しい国際合意が期待されたコペンハーゲンでの『国連気候変動枠組み条約第15回締約会議(COP15)』を12月に控え、環境問題が政治的イシューとして大きくクローズアップされていた感がありました。
しかしながら、世界が経済的混迷からなかなか脱却し切れず、かつ先行きの不透明感がますます助長される今日においては、新たな国際合意もままならない状況です。それどころか、世界的な“エコ疲れ”が蔓延し、もはや「政治的イシューとしての環境問題は、忘却の彼方へ」といった感があります。
しかし、そもそも環境問題は、一過性の政治的課題ではなく、腰を据えた継続的取り組みが求められるものです。逆をいえば、こうした状況が一服し、いよいよ環境問題も本質的な議論の段階に来たと思うのです。
思えばここ1年の環境問題の議論は、「地球温暖化問題」に一元化される傾向がありました。しかしながら、今年の夏は特に猛暑日が連日続き、冷房を止められないというジレンマに陥る中、多くの人が「地球温暖化防衛軍」の一員にはなり切れなかった、というのが実情でしょう。
そもそも、環境問題はひとつの問題に収斂できるほど単純な問題ではなく、さまざまな問題が複合的に絡みあったものといえます。グローバリゼーションに代表される、一元化へと収斂させる流れの一方で、多元化への動きが進むという「グローバル・パラドクス」が、いままさに環境問題の世界でも起こっているのです。
つまり、環境問題の本質的な議論の第一歩とは、「地球温暖化ありきで環境問題を考えない」ということなのです。
日本でなかなか進まない
エネルギー問題の本質的議論
先日、史上最悪規模となったメキシコ湾における原油流出事故でその原因となっていた油井が完全に封鎖されたことが発表されました。今回の事故は深さ約1500メートルの深海で起こりましたが、いまや油田開発は困難を伴う作業となっており、油田開発コストは、2000年以降3.5倍に増加しているとの報告もあります。今回の事故を受け、今後の油田開発はますますコストの増加が見込まれる一方で、原油の質は一層低下すると見られています。