相手を一方的に責めていませんか?

 最近、企業の管理職や監督職を対象とした研修で、部下の指導・育成に関するテーマが非常に増えています。これは、業務遂行に関する知識や専門的な技能もさることながら、人間関係に関する能力を高める必要を感じる人が多いからでしょう。

 しかし、人間関係に関しては、こうすれば必ずうまくいくという「魔法の処方箋」があるわけではありません。経験の中で学び、磨きをかけていく努力を続けていくことが、マネジメント能力を高める「王道」と言えるでしょう。逆に「近道」はないのです。

 言葉や態度というのは非常に微妙なもので、同じ指導をしているつもりでも、責められていると感じたり、支援してくれていると感じたり、と、相手の受け止め方はさまざまです。それだけに、管理職としては、部下にどういう言葉をかければよいか、どのタイミングでどういう接し方をすればいいか、ということをつねに考えるものです。特に、部下を叱らなければならないとなると、頭を悩ませることでしょう。

 しかし、管理職の中には、「叱る」ことの意味を誤解しているために、「叱れない」「叱り方が分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。

 本連載では、「叱りの技術」を「コーチング」というコミュニケーション・スキルの考え方をベースにしてとらえていますが、その基本は、「人間の個性を尊重し、伸ばしていく」という考え方です。相手を責めたり、人格を攻撃したりするのではなく、部下の可能性を引き出し、伸ばしていく発想です。私は過去の著作の中で、「ほめ活かし、ほめ育て」の重要性を強調してきました。「ほめる」と「叱る」はアクセルとブレーキのような関係にあり、両者のバランスが取れて、初めて効果的な指導が可能になると思います。

 「コーチング」というと「とにかく相手をほめること」だと考えている人が少なくないようです。そのうえ、「叱る」ということを、相手に対して一方的に怒ったり、責めたりすることだと誤解していると、「コーチング」と「叱る」ことが対極に位置するものに見えてしまいます。実はそう考えている方こそ、本連載を読んで「叱る」こととは何かを知り、相手をよりよい方向に導くための効果的な「叱り方」を身につけることが大切ではないかと考えています。