経済情勢の変化に合わせる形で、景気が拡大すると、生産能力の不足を補うために、生産機能の一部を外部の企業に委託するアウトソース(外製)が盛んに行われる。一方で景気が低迷して受注が少なくなると、一般には内製化に向けた動きが加速するが、アウトソースの方が新たな固定費負担を回避できるという理由で、近年ではアウトソースが実施されることも珍しくない。工場で働く人員を外部委託化することも、広い意味でのアウトソースに該当する。ところで、アウトソースするとコストダウンできるというのは果たして本当なのだろうか?

アウトソースの落とし穴
安く見える製造原価

 ある大手の精密機器メーカーでは、製品自体が高価であることや高精度化に伴う技術競争の激化から、受注が安定せず、生産量の変動に悩んでいた。そんな折、今から10年近く前になるが、ある生産担当役員が、複数のうちのある一つの基幹ユニットの内製原価が割高であると考え、外部の専門メーカーからも原価見積もりをとって比較するよう指示した。

 高度な精密機器であることから、加工できるメーカーは限られていたが、技術力に優れたいくつかの国内メーカーに見積もりを依頼した。大手メーカーから注文を受けるチャンスと考えたこれらのメーカーは、できるだけ価格を安く抑えた見積もりを提出した。

 それを見た役員は、社内で作るより随分と外注の方が安いことに自信を得て、そのユニットの生産を外部メーカーに委託した。意を強くしたその役員は、他のユニットについても次々に外部委託化を進めた。製造原価の比較表を吟味していた経理部門も、当然のごとく外製化をサポートした。

 この精密機器メーカーの主力製品は、外製化により大きなコストダウンに成功した。同時に、社内での仕事は、外製先から納入されたユニットの組み立てと最終検査だけとなり、多くのスペースを占めていた仕掛在庫は一掃され、フロアスペースにも余裕が生まれた。