25分の「投資」で完全に覚醒できる

 私自身が、頻繁に昼寝をします。ソファ、机の上、トイレ、電車の中、病院のベッド。人目につかない場所を選び、躊躇せずに昼寝します。前日の夜に充分な睡眠をとれていたとしても、昼寝します。ほとんどルーティンのようなものです。

 「仕事中に寝るとは不謹慎だ」と思う人も多いようですが、疲れた体と頭で仕事を続けてパフォーマンスを下げるほうが、プロとして不謹慎ではないでしょうか。体調管理不足で寝るのではなく、午後のパフォーマンスを上げるために昼寝するのです。

昼寝は午後のパフォーマンスを上げるための戦略だ

 戦略的に昼寝をする場合、必要時間は合計25分を見込んでください。実際に寝ている時間は20分です。残りの5分は、覚醒して臨戦態勢に戻るまでに必要な時間です。

昼寝後の5分は、冷たい水で顔を洗う、近くにいる人と会話する、階段を使って1フロア上がる、などに充てて、完璧に覚醒するまでを昼寝のトータルの時間として考えておきましょう。また、デスクで昼寝する場合は、目覚めた時のために、濡れタオルを目の前に用意してから眠るのもよいでしょう。

 「周囲からどう見られているだろうか」「なんだか申し訳ない」など余計なことを考えていては、昼寝の効果は半減します。「午後からのパフォーマンスを落とさないために昼寝している」と自覚して、堂々と、万全の態勢で昼寝をするのです。

 なお、拙著『一流の睡眠』で詳しく解説していますが、「寝貯め」はできません。「夜の睡眠を先取りする」という目的で昼寝を考えるのは間違いです。昼寝は「短くとって午後のパフォーマンスを上げるもの」と目的を絞って実行することが大切です。

30分を超えると
パフォーマンスは激減する

 戦略的に昼寝を活用するための方法を、もう少しお話しします。

 先日、昼寝を日課にする40代の男性ビジネスパーソンとお話ししました。その人の会社では昼寝を推奨していて、彼も午後のパフォーマンスを上げるべく、積極的にデスクでの昼寝を活用していました。

 ところが、彼は20分で昼寝から目覚めるつもりが、つい50分近く眠ってしまった日があったそうです。同僚から肩を強く叩かれて目を覚ましましたが、ボーっとしてしばらく仕事に集中できなかったようです。

 さて、次の図をご覧ください。これは、平均的な人間の睡眠サイクルを示しています。

 昼寝は仮眠の一種です。一般的に、仮眠時間が30分を超えるとノンレム睡眠中の深い睡眠深度である3、あるいはもっとも深い睡眠深度4に達することがあります。

 この段階に達してしまうと、目覚めにくいだけでなく、目覚めた直後はかえって眠気や疲労が増大すると言われています。この現象を「睡眠慣性」と呼びます。

 人は睡眠中にさまざまな脳波を出します。周波数の低い成分(徐波成分)が中心となる睡眠は「徐波睡眠」と呼ばれます。睡眠深度3と4が徐波睡眠に該当し、これがいわゆる「深い睡眠」です。

 通常、夜の睡眠の最初3分の1の時間帯に徐波睡眠が多く見られる特徴があり、加齢とともに減少していくことが知られています。これは、年を取ると眠りが浅くなることに関係しています。

 30分以内の仮眠であれば徐波睡眠を含みにくく、起床直後の睡眠慣性が少ないのですが、30分以上眠ると徐波睡眠のエリアに踏み込むため、睡眠慣性が強く出やすくなるのです。

 一般的に、眠りに就いてから1~3時間後あたりが深い睡眠のど真ん中です。このタイミングで急に起こされて、ひどいだるさを経験したことのある人も多いでしょう。前述の男性ビジネスパーソンも、この睡眠慣性の影響で、昼寝から覚めた後もボーっとしていたのです。

 また、睡眠深度3や4は、1日の中で出現する時間数がほぼ一定と言われていますので、日中に深く眠ってしまうと、その分、夜間睡眠中の深い睡眠が減少する可能性があります。

営業車のシートを倒して爆睡せよ

 若い人や、自分が深い眠りに入りやすいと自覚している人は、とくに要注意です。若い人は、入眠してから深い睡眠に至るまでの時間が比較的短いため、30分で深睡眠に入ってしまう可能性が高いのです。そのため、若い人の昼寝は、20分以内をより厳密に徹底したほうが良いでしょう。

 また、車を使う営業職の人などは、車のシートを倒すと、20分間で十分な効果を得ることができるという医学的データがあります。

 ただ、浅い眠りでも若干の睡眠慣性は残るため、目覚めた直後に運転を再開するのではなく、少し外を歩いたり飲み物を飲んだりして、しっかりと覚醒してから車を動かしましょう。