ルネサス エレクトロニクスが発足してから、半年が経過した。ルネサス テクノロジ(日立製作所と三菱電機の半導体合弁会社)とNECエレクトロニクスが統合して誕生した“日の丸半導体”連合は、強豪ひしめく世界の半導体市場で生き残っていけるのか。水面下で進む合理化プランの進捗度と将来戦略を検証した。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)
NECエレクトロニクス(NECエレ)出身の松井俊也SoC第二事業本部副事業本部長は、ある資料を前に、肝をつぶした。
今年4月、ルネサス テクノロジ(RT)とNECエレが経営統合して発足したルネサス エレクトロニクス(ルネサス)が始動した。それからまもなく、新会社幹部には、2003年に発足したRT(日立製作所と三菱電機の半導体合弁会社)の統合過程で作成された資料が配布された。
「共通言語早見表」。旧日立、旧三菱で使用されていた、半導体分野の専門用語を一本化した「共通言語」やその定義をまとめたものだ。同じ半導体業界に身を置いたメーカー同士でも、流通していた言語はまったく異なっていた。共通言語の数は1100語に上り、資料はA4用紙にして500枚を超えた。松井副事業本部長はこのギャップに驚きつつ、統合にかかわる実務作業の膨大さを実感したのである。
今回の統合においても、実情は同じだ。次期事業計画の目標のことを、RTでは「認許」、NECエレでは「予算」と呼んでいたし、集積回路が正常に機能するかを確認するテストの名称も「ウエハテスト」「P‐W」とバラバラだ。
さらにいえば、事業運営における根本的な考え方も違う。半導体製品の実力を測る指標として、RTは原価、NECエレでは粗利益を優先基準としている。前者はいかにコストを抑えるか、後者はいかに利潤を上げるか、に重きを置いてきたのだ。
こうした言語や考え方のベクトルを合わせる作業では、「統合の“先輩”であるRT出身者が議論をリードしてくれる」(松井副事業本部長)という。実際に、NECエレよりもRTで用いられていた言語・基準を多く採用することで、実務作業にかかる時間的なムダを極力排除した。RT時代に培った経験値が、新生ルネサスの統合作業に生かされている。
もっとも、RTの統合は「半導体業界では“失敗した”という評価が下されている」(南川明・アイサプライ・ジャパン副社長)という見方が大勢だ。そう結論づけられる最大の理由は、合理化作業の甘さにある。
家電機器、自動車など一般家庭1戸当たり約150億個が搭載されているマイコン(マイクロコントローラー)を例にとろう。旧日立と旧三菱の技術を融合させた新型マイコン「RX」シリーズが出荷されたのは09年。統合から6年もの月日が経過していた。「重電に強い日立、ファクトリーオートメーションに強い三菱といった出自の違い、互いのメンツがぶつかり合った」(ルネサス幹部)ために、大幅に開発が遅れたのだ。