「限定1両!いすみ鉄道の鉄道車両、いすみ200型204号車を210万円で販売いたします」
いすみ鉄道が、こんなトテツモナイ売り出し文句で、日本中の度肝を抜いたのは今年8月。車庫に眠っていた自社の中古車両をオンライン発売したのだ。「どんな大金持ちの鉄道マニアが買うんだ!?」などとさんざん話題になったが、結局、養鶏業を営む地元の人がレストラン店舗用に購入している。
同社のびっくりニュースはこれだけではない。
たとえば、ムーミンのキャラクターを車体や車内にあしらった「ムーミン列車」の運行。枕木オーナーの募集。鉄道や駅のネーミングライツ(命名権)の販売などなど。ちなみに、駅名命名権の価格は100~200万円。すでに3駅分を売却しており、「デンタルサポート大多喜駅」「三育学院大学久我原駅」「風そよぐ谷 国吉駅」などの駅名が誕生している。国吉駅の命名権を買ったのは、同社の代表取締役社長、鳥塚亮氏だ。
なんといっても、きわめつけは今年4月末に発表されたニュース。「養成費用の自腹負担を条件に、自社運転士を募集する」というものだ。訓練費用は700万円と高額にもかかわらず、100件以上の問い合わせが集中。4名が選ばれ、契約嘱託社員として訓練を受けることになった。その後、3名が学科試験、適性検査に合格し、現在、運転訓練に入っているそう。
鉄道マニアのみならず、今や全国のお茶の間にその名が知れ渡った「いすみ鉄道」。びっくりニュースの舞台裏をのぞいてみると、少子化時代を生きのびるための重要なヒントも見えてきた。
なお、この連載ではさまざまな「趣味活」の達人にインタビュー。社会がギスギスする中、妙に活気のある、奥深きオタクワールドを紹介していく。
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趣味活企業#06:いすみ鉄道
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前代未聞の取り組みに批判の嵐も
それでもやらざるを得なかった
「たしかに訓練生を募集したときは、一部ですが批判も寄せられました。『社長も従業員も全員、精神病院へ入れ』などという過激なメールも届きましたよ」
こう打ち明ける同社総務部長の高橋清さん。ネットでも、「ブラック企業」などと非難する声があった。もちろん、7割ほどは前例のない試みを賞賛し、励ます内容だったそうだが。
そもそも同社はなぜ、こんな大胆な案を打ち出したのだろう?