液晶パネルメーカーが総崩れの状況に陥っている。国内大手のシャープやジャパンディスプレイだけでなく、シャープの親会社になった台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)の傘下企業など海外勢も価格下落による赤字に苦しみ始めた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

次世代ディスプレーの有機ELへの対応でも、シャープやイノラックス、ジャパンディスプレイは後れを取っている(写真はシャープが開発中の折り畳み可能な有機ELパネル) Photo by Masaki Nakamura

 8月12日。台湾の電子機器受託製造サービス大手、鴻海精密工業(ホンハイ)からの出資が完了したこの日の午前、シャープではある“事件”が起きていた。

 自らの退任と取締役の辞任を機関決定した後、大阪市の旧本社ビルの2階個室から出てきた高橋興三前社長は、社員たちへ最後のあいさつもないままに、社用車に乗り込み、午前中にそのまま帰ってしまったのだ。

「後のことは知らん」と言わんばかりに、会社を去っていくその姿を見聞きした社員たちは、怒りを通り越してもはや「ネタとして笑うしかなかった」という。

「もう何もしなくていいですから」。出資契約をした4月以降、高橋氏はホンハイからそうクギを刺され、7月末にあった四半期決算の会見にすら姿を見せなかった。だが、惨憺たる業績の言い訳をしなくて済んだだけ、本人にとっては好都合だったかもしれない。

 シャープの2016年4~6月期の連結最終損益は、274億円の赤字。肝心の液晶事業の売上高は前年同期比で実に37%も減少。営業赤字は107億円にも上った。

 特に米アップルのiPhoneをはじめとした、スマートフォン向けの液晶パネルの出荷が減少していることが打撃になった。

 それに加えて、足元でシャープを苦しめ始めたのが、第10世代と呼ばれる世界最大の液晶工場を持つ、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の大幅赤字だ。

 SDPは、シャープから37.61%の出資を受けており、持ち分法適用会社になっている。そのSDPがテレビ向けパネルの受注減少と、円高の影響によって300億円超(推計)の最終赤字に転落したことで、116億円の持ち分法投資損失を被ったのだ。

 SDPの赤字は、単なる災難では済まされない。12年からSDPに出資し、運営の主導権を握ってきたホンハイにとって、「これまで黒字を維持」(ホンハイの郭台銘会長)してきたことが、シャープの液晶事業も再建できるという主張のよりどころになっていたからだ。そのロジックがここにきて、完全に崩れてしまったわけだ。

 さらに言えばSDPだけでなく、ホンハイ傘下の液晶大手、群創光電(イノラックス)も業績不振に陥っている。中国勢などとの価格競争が激化し、16年4~6月期に34億台湾ドル(約111億円)の最終赤字を計上したのだ。