一方、経済産業省はTPPに参加しない場合、自動車、電気電子など日本が強い産業が打撃を受けることによって、GDPは10兆5000億円減り、81万人の雇用が減ると試算している。内閣府は複数のケースで試算しているが、TPPに加盟して貿易を100%自由化した場合、GDPは2.4兆円~3.2兆円増えると分析している。

 どれが最も現実的な予想なのかは分からない。言えることは、前提の置き方次第で、かくも大幅に結果が違うということだけだ。そして、いくら試算しても、予測はかなりの幅になるだろう。なぜなら経済活動は生き物であり、こちらが動けば、相手もそれに負けないように戦略を発動し、それがこちらに跳ね返ってくるからだ。だから数字の妥当性をあれやこれやと深く追求しても、あまり実りはない。

 一番の問題は、バブル崩壊後の失われた20年を経て、政府・与党をはじめ日本全体が、すっかり「後ろ向き思考」「縮み思考」に陥っていることだ。世界経済の構造は、いま大きく変わりつつある。その動きに合わせて経済の枠組み・仕組みを変えようとすると、ネガティブな影響ばかりが言い立てられる。

 国を開くと言えば、わくわくするような「夢」や、「トライ」とか「挑戦」という言葉が浮かんでできてもよいはずだ。その意味で、この国は本当に憶病になり、そして老いたのだろうか。

 本来なら、国を開く、貿易の仕組みを変えるということは、ピンチである一方、大きなチャンスでもある。日本の農産物輸出が、そのことを示している。日本の農産物輸出は、03年の1960億円を底に反転し、09年は2630億円と、着実に増えてきている。人口減少が始まったいま、国内で食糧に対する需要が増えて行く見込みはない。貿易の自由化は、国の外に市場を拡大するチャンスでもある。

 製品や商品の競争力は、価格とコストばかりではない。いかに価格を下げて海外の農産物と競争するかと考えるから、お先真っ暗になる。どうすれば高い価格でも買ってもらえるか、と発想を転換すれば、道は開ける。

 そのためには、政府は農家の規模拡大を促進し、質の高い農業にトライする農家を支援し、ブランド確立や流通コストの削減にこそ、資金が投入されるべきだ。もうそのことは、過去から何回も指摘されている。そして誇り高い農業従事者も、お情け頂戴の保護や補助金などは望んでいない。