民主党政権になって、米などの販売価格と生産コストの差額を補てんする、戸別所得補償制度が始まった。関税は廃止して所得補償で農家の生活は守る一方、農産物市場は自由化するための第1歩だとすれば、それなりの評価はできる。だが、現在の所得補償は、ほぼ無差別に配られていて、その目的がはっきりしない。

やはり農家の強い反対があった
韓国はどう対処したか

 すでにお隣の韓国は、米国、EUともFTAを締結し、貿易の自由化では、日本の先を走っている。FTAを進めるにあたっては、韓国でも農家の強い反対があった。これに対して、韓国政府は、農家に対して短期的な所得補償を行うと同時に、強い農家を育成するために専業農家の育成、営農規模な拡大などを促進しようとしている。04年~13年の間に119兆ウォン(約8兆3000億円)、08年~17年にかけてさらに20.4兆ウォン(約1兆4000億円)が投じられる計画だ。FTAを国策として、実に戦略的に事を進めている。いまや、我々はお隣の国から学ぶべき点が多い。

 戦後の日本は、世界の平和と自由貿易体制の恩恵を最も享受してきた。経済規模が大きくなった結果、日本の輸出依存度は17%で、ドイツの48%、韓国の55%と比べると格段に低いため、貿易はさほど重要ではないという見方もある。だが、これは間違いだ。

 これから国内市場が拡大しないことを考えれば、輸出の役割は再び大きくなる。輸出を増やし、輸入も増やして世界経済に貢献することが、歴史的にみても日本の責務である。それはまた日本経済を活性化する道でもある。 

 農業関係者には、関税にしろ、所得補償にしろ、それは農業以外の産業で働く人たちの直接、間接の負担で行われていることを認識して欲しい。鶏が衰弱すれば、農業と農家を守る金の卵も産めなくなってしまうからである。

 そして菅首相に問われるのは、「意志」と「決断」と「ビジョン」である。首相はTPPを「黒船」に例えたが、江戸幕府は国を開くことに対するビジョンがなく右往左往するばかりで、滅亡の端緒を開いてしまった。にもかかわらず、今回もまた首相から、国を開くことに対する強い決意と熱い思い、そしてビジョンが伝わってこないと感じられるのは、なぜだろうか。

(ダイヤモンド・オンライン客員論説委員 原 英次郎)