上部団体から供給される割高な肥料・農薬は取り扱わず、コメの販売委託もしない。全農が集団ボイコットしているコメの先物取引にも参加する。福井県の一農協が打ち出した改革策は農協組織の利権構造に風穴を開けるものだ。この動きに追随する農協が続出すれば、千里の堤も崩す「アリの一穴」となるだろう。

農協離れ加速、利権に風穴か<br />福井県の地域農協が全農に反旗22万人もの役職員を抱える巨大組織維持のため、日本の農業に寄生してきた農協(JA)グループ。その利権構造に、富田隆組合長(上)率いるJA越前たけふ(下)が反旗を翻した

「組織からの離脱だの、中央への反旗だのと言われるが、そんな大それた考えはない。組合員にとって何がよいかを考えたら、こうなった。農家のための農協という原点に戻るだけだ」

 JA越前たけふの冨田隆組合長は自身が打ち出した一連の“改革”をそう言って笑い飛ばす。

 今年10月30日、JA越前たけふは臨時総会で肥料・農薬の購買やコメなどの農産物販売といった経済事業について、上部団体の「経済連(経済農業協同組合連合会)」から離脱し、独自で手がける方針を決定した。単位農協と呼ばれる地方の一農協が、主力事業である経済事業で農協組織を離脱するのは、全国初のケースである。

 肥料・農薬の購買や、コメなどの農産物販売は、一般に、単位農協の上部団体で、都道府県単位で置かれている経済連、さらにその連合組織である「全農(全国農業協同組合連合会)」が率いるかたちになっている(ホクレンなど、一部の例外がある)。

 たとえば、肥料・農薬なら、全農が一括調達し、これが経済連、単位農協を経て農家に届く仕組みで、逆にコメは単位農協が集荷し、それが上部団体へと流れていく。

 だが、JA越前たけふはこれらの経済事業を、スーパーマーケット経営が主体の子会社「コープ武生」に2013年度に事業譲渡する、つまり、主力事業を本体から切り離すのだ。この結果、集荷したコメの販売は上部団体に頼らずに卸や消費者に直販し、肥料や農薬などの農業資材も自力で調達して販売する。だから経済連・全農は「単なる取引先のなかの1社。よそより条件がよければ取引する」(冨田組合長)という、以前の絶対君主的存在から一気に“一出入り業者”に格下げとなる。

 この決定を受けて、JA越前たけふの元には、全国の単位農協から「どうやれば、できるのか教えてくれ」といった問い合わせや「がんばってくれ」という激励の電話が殺到する事態になっている。