「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。

秀逸なミッション・ビジョンは、<br />企業や時代を越えて<br />長く継承されていくPhoto: Adobe Stock

ユニクロのミッションの原点は、
松下幸之助が掲げた「水道哲学」だった

 いくつかの企業のミッションを取り上げてみよう。

 ユニクロは、ミッションの他にステートメント(Statement)という概念を最上段に掲げており、そこには、こう書いてある。

 「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」

 この一文は、ユニクロの存在意義の全てを言い表している、秀逸な言葉ではないだろうか。

 2019年、ユニクロがフリースを発売して25周年を迎えたが、カジュアルなタウン着として定着させ、従来のアウトドアブランドでは考えられないような安さで提供したことは、「常識を変え」たと言えるだろう。ヒートテックについても、新しい下着の概念を生み出したことなどは、ミッションにそのまま当てはまる。アパレル業界における「常識」と言われることに果敢に挑戦しているのが分かる。

 これを打ち出した柳井正社長が、最も強い影響を受けたのがパナソニックの創業者・松下幸之助が唱えた「水道哲学」だという。

 水道哲学とは、水道の水のように安価で良質なものを大量供給することが産業人の使命であるという松下幸之助氏の経営哲学である。

 この水道哲学が、柳井氏の経営者としての原点であり、指針となっているという。

 服も水道(水)と同様に、民主化が必要であり、ユニクロのミッションの根底にその考えがある。

 こうして松下幸之助から柳井正に引き継がれたように、秀逸な経営理念や哲学は、時代を超えて継承されていく。CXOは自分が憧れる会社や経営者の掲げるミッションを見て、もし響く言葉が見つかれば、「なぜ、この言葉が自分に響くのか?」ということを内省してみると良いだろう。