日銀Photo:PIXTA

新型コロナウイルスの感染が拡大する前、あまりに金融緩和を続けると、いざ不況になったとき、金融緩和の余地がなくなって困るという議論があった。しかし、現在のコロナ禍の不況の中で、このような議論を聞かない。なぜだろうか。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

本末転倒だった新聞記者や野党議員の質問

 2017年10月31日、日本銀行の金融政策決定会合後の黒田東彦総裁の記者会見で、ある新聞記者が質問した。「今のまま金融緩和を続けていると、緩和が必要になった場合に、手段が限られるがどう考えるのか」――。

 黒田総裁の答えは、「将来の何かのために今から引き締めるのは本末転倒だ」というものだった(黒田東彦「総裁記者会見要旨」日本銀行、2017年10月31日)。この質問の示唆するところは、将来の不況のときに金利を下げる余地を作るために、今から金利を上げて不況を作っておけということになる。確かに、これは本末転倒と言うしかない。

 その後、希望の党(当時、現在は立憲民主党所属)の津村啓介衆議院議員は、2018年2月6日の予算委員会で黒田総裁に、「2019年、20年と世界の景気後退局面が予想される。金利を下げるための余地を今作っておくのはいかかが」と質問した。黒田総裁は「将来ののりしろを作るために金融政策を転換するのは適切ではない」と答弁した。市場関係者からは「日米同時株安の中で金融緩和の出口を議論するなんて野党はマーケットが全く分かっていない」との声も出た、とのことである(「野党 金融緩和偏重追求の構え 成長戦略対案はみえず」日本経済新聞、2018年2月7日)。