2019年に京急線の踏切で列車と大型トラックが衝突して脱線し、トラック運転手が死亡、電車の乗客乗員77名が負傷した事故について、国土交通省の運輸安全委員会は2月18日、事故の調査報告書を発表した。だが、京急の元乗務員たちは、報告書では見過ごされている深刻な問題があると指摘する。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
本社と現場の分断により
ヒヤリハット報告が機能不全
2019年9月5日に京浜急行電鉄神奈川新町第1踏切で立ち往生したトラックと下り快特列車が衝突した事故について、国土交通省の運輸安全委員会が2月18日に事故調査報告書を公表したことは本連載でも取り上げた。
しかしながら、この報告書は事故そのものの経過については細かい検証がなされたものの、踏切の支障を知らせる特殊信号発光機の視認距離が不十分であった原因や、この問題が見過ごされてきた背景について、十分な掘り下げが行われたとは言い難い。
なぜ、踏切事故を防ぐことができなかったのか。取材を進める中で、複数の元乗務員から事故の芽が生じてしまう京急の実態について話を聞くことができた。
京急で10年以上車掌として勤務し、事故前に退職したA氏が語るのは「本社が指示を出して現場は従うだけ」という現場と本社の分断だ。職場には「本社に意見することは悪いことだ」との空気が蔓延しており、現場の声が反映されることはほとんどないという。