石破茂首相は月内にまとめる経済対策でAI(人工知能)・半導体分野に10兆円を超える支援の枠組みを構築する。衆議院選挙の自民党大敗によって政府の半導体支援は継続が危ぶまれたが、これが実現すれば、国策半導体企業のラピダスの支援を筆頭に、半導体政策は一気に強化される見通しだ。特集『半導体の覇者』の#3では、水面下で激変する政府の半導体政策のパワーバランスの実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
自民重鎮の落選後に飛び出した
石破首相の半導体支援表明
与党が大敗した衆議院選挙で、政府の半導体支援を推進してきた自民党の重鎮が落選した。神奈川20区から出馬した甘利明氏だ。
党幹事長や経済再生相などを歴任した甘利氏は、岸田政権下で自民党の経済安全保障推進本部の本部長として、政府・自民党の経済安全保障の議論を主導してきた。
2021年5月には自民党半導体戦略推進議員連盟を立ち上げて会長に就任。衆議院議員の山際大志郎氏、関芳弘氏、小林鷹之氏ら「チーム甘利」のメンバーを率いて、経済産業省の半導体政策を政治サイドから強力に後押ししてきた重鎮である。
チーム甘利のバックアップにより、21年には台湾積体電路製造(TSMC)熊本工場の誘致で巨額の補助金投下を可能にする改正法が成立。22年には最先端半導体の国産化を目指すラピダスが発足した。さらに政府は、21年度から23年度までの3年間で半導体分野に補正予算で計3.9兆円もの支援を決めている。その甘利氏の落選で政府の半導体支援の継続が危ぶまれていたところだった。
だが、11月11日の首相指名選挙後に石破茂首相が記者会見で、「AI(人工知能)・半導体産業に2030年度までの7年間で10兆円以上の公的支援」を行う方針を表明したことで、流れが変わった。
政府の念頭にあるのは、ラピダスの支援だ。これまでのように毎年度ごとに補正予算を計上する場当たり的な手法から脱し、中長期計画に基づいて安定的・継続的に支援を実施する方針を明確にした。これにより、政府の半導体政策は先行きを見通しやすくなり、むしろ強化の方向が固まった。
半導体支援の枠組みは月内にまとめる経済対策に盛り込まれる予定だ。これに合わせて水面下では、チーム甘利のメンバーが活動再開の準備に入った。近く議連の会合を開き、政府の半導体戦略の推進継続の提言と新体制を決める。
関係者によると、甘利氏に代わって半導体議連の会長は山際氏が就任する予定で、関氏と小林氏が支える体制になる。甘利氏は名誉会長に就任して、引き続き政財界への影響力が残す。
水面下では、政府の「10兆円以上」のAI・半導体支援をめぐって新たなパワーバランスの攻防が始まっている。次ページで、その生々しい実情をレポートする。