今年5月の就任以来、初めて中国を訪問したサルコジ・フランス大統領。シラク前大統領の訪中時と同様に、仏企業のトップ40人以上を同行した。

 そのなかに、仏原子力発電大手、アレバのアンヌ・ロベルジョン会長の姿があった。ロベルジョン会長は政界とのパイプも太く、1991年には首相補佐官として活躍、サルコジ内閣への入閣が取り沙汰されたこともある。

 今回の訪中では、アレバが中国の原発大手、広東核電集団向けに、欧州加圧水型軽水炉2基を80億ユーロ(約1兆3000億円)で納入する契約を正式に結んだ。

 アレバは、世界最大の原発企業。2006年度の売上高は108億ユーロ(約1兆7500億円)、営業利益4億ユーロ(約650億円)。その事業分野は機器製造にとどまらず、ウラン採鉱・製錬のほか、送配電、使用済み核燃料の再処理、廃棄物処理など周辺ビジネスに及ぶ。

 省エネルギーや温暖化ガス抑制のため、世界的に原発需要が高まっている。なかでも中国は、米国に次ぐ第2の大型市場と見込まれている。現在運転中の800万キロワットを2020年に4000万キロワットに増やすべく、約30基を新設する見通しだ。

 原子炉は、加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)に大別されるが、中国が採用を決めているのはPWR。目下、このPWRを提供できるメーカーは、アレバと東芝傘下のウェスチングハウス(WH)、三菱重工業の3社しかない。

 すでに、WHが4基の建設を受注している。WHとアレバは世界シェアで、それぞれ20%前後と拮抗するライバル同士だ。ロベルジョン会長が自ら足を運んだのは、今回の契約ではずみをつけ、一気に中国市場を刈り取ろうという並々ならぬ意欲の表れだろう。

 アレバが広東核電と合弁会社までつくって、中国市場へ攻勢をかけるのとは対照的に、慎重なのが三菱重工業だ。

 中国は将来、国産炉の製造を想定しているため、納入契約する場合、技術導入が前提条件。中国メーカーは、海外への輸出も模索するだろう。三菱重工業は、「知的財産への意識が低い」(大手原発メーカー)ことや契約のあいまいさといった“読めないリスク”を懸念している模様で、蒸気タービンなどの機器納入・建設にとどまる。

 海外メーカーからの技術移転を前提に原発導入を計画している国はベトナムやインドネシアなど、中国のほかにも数多い。三菱重工業のシェアは3%。むしろ“おくて”であることが、リスクになりかねない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 柴田むつみ)