中国の大手テレビメーカーTCLが、今年上半期の最終損益が赤字に陥る可能性があると表明し、話題を呼んでいる。

 中国の液晶テレビ市場は、強力な政府の後押しもあり、リーマンショックからいち早く立ち直り、急速に販売台数を伸ばしてきた。米ディスプレイサーチによれば、いまや中国は年間3000万台を販売する世界第3位の市場となり(2008年度)、11年度には北米を抜き去って世界第1位の市場に躍り出ると予測されている。

 その時流に乗り、わが世の春を謳歌してきたはずの中国メーカーが、赤字転落しかねないという事態に、関係者は驚きを隠さない。いったい中国のテレビ市場で何が起こっているのか。そこにはいくつかの“異変”があった。

 まず、今年に入りテレビの売れ行きが失速した。昨年は4四半期とも前年同期比100%増を達成し、1年で最も売れる10月の国慶節では、前年同月比130%増の売り上げを記録した。ところが、今年の第1四半期は前年同期比82%増と昨年よりも売れ行きが鈍化。もっとも、「昨年が売れ過ぎた。今年は通常のペースに戻っただけ」と多くの関係者は口を揃える。

 だが、この影響は深刻だった。昨年の好業績に気を大きくした中国メーカーは今年の販売量を過大に見積もっており、液晶パネルを大量に仕入れてしまっている。それが、販売量の低減により、通常の倍近くの在庫を抱えることになり、収益を圧迫している。

 しかも、需要が旺盛なためパネル価格は高止まりしており、販売価格を下げられない。中国の液晶テレビ普及率は20%程度だが、富裕層の多い沿岸部にはすでに行き渡り、今は2台目、3台目需要が中心だ。また、内陸の農村部でも液晶テレビが花盛りだが、こちらの競合相手は1000元前後のブラウン管テレビ。そのため、価格が下がらなければ、販売量が伸びづらい構図となっている。

 加えて今年は海外のテレビメーカーの中国攻略が本格化した。たとえばソニーは、台湾のODM(相手先ブランドでの製造)メーカー、フォックスコンと組んで中国向けに32型3000元という戦略商品を投入した。

 その結果、中国メーカーと海外メーカーとの価格差は1年前の30%から10%にまで縮まった。いきおい海外メーカーのシェアは伸び、一方のTCLのシェアは12%から7~8%に落ち込んでしまった模様だ。そのうえTCLは、海外ビジネスのリストラなど特殊要因が重なり、赤字見通しになったとみられる。

 TCLに限らず、「他の中国メーカーも同様に厳しい」と複数の関係者は指摘する。成長著しい中国市場にあって、コスト競争力の高い中国メーカーですら苦しむ液晶テレビ事業。今後も苛烈な競争は続くだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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