
野口悠紀雄
ChatGPTとデータベースを連携させると、生成系AIによる「データドリブン経営」が可能になる。こうした活用は企業で今後広がり業績格差を生むことになるが、統計データなどについては無料で利用できる仕組みが望まれる。

生成系AIがウェブサイトにある統計データを読み取れればデータ分析作業は革命的に変わる。しかし現在の能力では正確に読み取れず、出力するデータを信じてはいけない。簡単な作業でも「助手の役割」はできない。

生成系AIによって基本的な翻訳や校正の仕事は代替され、マネージメントや高度な金融サービスでも生産性が高まるために失業する人が出る。一方で「バタフライ・エフェクト」で思いもかけないプラスの変化が生まれることもある。

ドル円レートが半年ぶりに1ドル140円台になったのは日銀新体制が金融緩和維持を明確にしたことが大きい。今春闘は好調でも円安による物価上昇で実質賃金は回復できないまま低下が続く。緩和継続の意味が改めて問われる。

児童手当拡充の財源を健康保険料に上乗せして徴収するのは筋違いで不合理きわまりないことだ。本来は税で賄われるべきだし、とりわけ後期高齢者からの徴収は働いている一部の高齢者に負担を押し付けるものだ。

ChatGPTなどの生成系AIは対話型ゆえに利用者の個々の事情に応じた多様な情報を提供しているように見えるが、それは錯覚だ。マスメディアより画一的な情報しか得られず民主主義社会の情報媒介ツールとしては危うさがある。

今春闘の賃上げ率は1993年以来の高い水準になったが、物価上昇率を差し引いた実質値は例年とほとんど変わりない。経済全体の実質賃金は著しく低下、賃金分配率も下がって事態はむしろ悪化している。

日本の賃金が長期的に上がらない最大の理由は産業構造が古い構造のまま固定され、新しい企業や技術、ビジネスモデルが現われないことだ。”円安政策”はそれを促進し金融緩和を続ければこの状態がさらに続く。

現在の制度のままだと、厚生年金は2040年代の前半に積立金を使い尽くして財政破綻する。これを回避するには年金支給開始年齢の再度の引き上げなど年金制度の改革が喫緊の課題だ。

年金財政を破たんさせないために年金支給開始年齢の再引き上げが喫緊の課題だ。しかも早く始めるほど、引き上げる年齢を低くできる。来年の財政検証でこの議論を提起すべきだ。

国会で審議中の「財源確保法案」など、防衛費増額の財源として検討されているのは、歳出削減や増税ではなく、「防衛力強化資金」と「決算剰余金の活用」だ。実質的には赤字国債で防衛費を賄うことを分かりにくくするトリックだ。

年金財政が破綻しないと政府は言ってきたが、直近の年金財政見通しを見ても実質賃金の伸び率を高く想定している。現実的な値を想定すれば年金の支給開始年齢の再度引き上げを考えざるをえなくなる。

生産性向上や高度人材確保にジョブ型雇用の導入が必要と言われるが、日本の報酬体系や退職金制度が障害になる可能性がある。ジョブ型雇用の普及には雇用制度の基本が変わる必要がある。

今春闘の好調は22年の原価の大幅な上昇を販売価格に転嫁でき粗利益が増えたからだ。しかし直近では輸入物価下落ともに粗利益の伸びも鈍化している。賃金が継続的に上昇していくのは考えにくい。

統計データは経済分析で重要だ。対話型検索エンジン「Bing」は、100%信頼できるかは怪しいが、使い方によってはかなりの手助けになる。賢い答えを得るには的を絞った質問をすることだ。

政府が2018年に社会保障給付と負担の長期見通しを示した資料で、ゼロ経済成長を想定すると、一人当たりの負担は4割も増加するとしました。しかし、社会保険負担引き上げの具体策に対する議論はほとんど行われていません。一方で、政府は2020年「全世代型社会保障」を打ち出しました。しかし野口悠紀雄・一橋大学名誉教授は、それは目くらましにすぎず、社会保障制度が抱えている最も深刻な問題は何も解決されることがないと言います。前回に続き野口先生の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書)より抜粋して紹介します。

生成系AIはメールの代筆や文章の要約などはすでに人間を超える能力を発揮する。だが新しいアイデアを出したり小説を書いたりするなど、クリエイティブな仕事は難しく、まだ人間の方が優れている。

岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に着手するなど、出生率の低下は日本の喫緊の課題とされています。最近の出生率の低下は、高齢化社会や労働力人口など、日本の将来にどのような影響を与えるのでしょうか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書)より抜粋して紹介します。

今春闘への期待が強いが、賃金分配率はほぼ一定なので、これを引き上げて賃上げを実現しても一時的だ。継続的な賃上げ実現にはデジタル化などでサービスや流通業の生産性引き上げが不可欠だ。

電気機械の貿易黒字の縮小が顕著だ。今や中国に依存しないとデジタル化もグリーン化も進められず、自動車も安泰ではなくなり始めた。このままでは貿易立国日本が生き延びる途はなくなってしまう。
