野口悠紀雄
生成系AIは知的労働に影響を与えるのが特徴だ。AIへの指示の差で結果が変わらない仕事は生成系AIに代替されるが、そうでない仕事でも、生き残るのはAIを活用して仕事の効率や内容を変えた人や企業だ。

生成系AIは文章作成の生産性を飛躍的に向上させるが、それによって賃金や雇用がどうなるかは需要が増えるか否かで大きく左右される。「第3次産業革命」といってもいい技術革新に対応するには経済社会の構造を柔軟に変える必要がある。

世界競争力ランキングで日本は第35位、アジア太平洋の14カ国中では第11位だ。1990年代の中頃には世界トップだった日本が凋落した原因は経済政策の誤りにあり、この状況は政策如何で変えられる。

ChatGPTなどのAIの進歩で「シンギュラリティ」はすでに到来したのかもしれない。まだだとしてもを使えるかどうかでやれることや貧富の差は拡大するだろう。全ての人が無料で使える仕組みを政府が整備すべきだ。

昨年以来の円安は異次元金融緩和以後の期間でも異常なものだ。元にもどる気配が見えないのは日銀が「緩和維持」をしているからだが、日本企業の体力が弱ったために金利を引き上げられないことによって起きている。

宿泊・飲食サービス業では人手不足で賃金が大幅に上昇し、これが食料品価格や宿泊料上昇の要因になっているが、経済全体では実質賃金低下が続く。購買力は増えずに物価上昇が続けば、経済がスタグフレーションに陥る危険がある。

ChatGPTとデータベースを連携させると、生成系AIによる「データドリブン経営」が可能になる。こうした活用は企業で今後広がり業績格差を生むことになるが、統計データなどについては無料で利用できる仕組みが望まれる。

生成系AIがウェブサイトにある統計データを読み取れればデータ分析作業は革命的に変わる。しかし現在の能力では正確に読み取れず、出力するデータを信じてはいけない。簡単な作業でも「助手の役割」はできない。

生成系AIによって基本的な翻訳や校正の仕事は代替され、マネージメントや高度な金融サービスでも生産性が高まるために失業する人が出る。一方で「バタフライ・エフェクト」で思いもかけないプラスの変化が生まれることもある。

ドル円レートが半年ぶりに1ドル140円台になったのは日銀新体制が金融緩和維持を明確にしたことが大きい。今春闘は好調でも円安による物価上昇で実質賃金は回復できないまま低下が続く。緩和継続の意味が改めて問われる。

児童手当拡充の財源を健康保険料に上乗せして徴収するのは筋違いで不合理きわまりないことだ。本来は税で賄われるべきだし、とりわけ後期高齢者からの徴収は働いている一部の高齢者に負担を押し付けるものだ。

ChatGPTなどの生成系AIは対話型ゆえに利用者の個々の事情に応じた多様な情報を提供しているように見えるが、それは錯覚だ。マスメディアより画一的な情報しか得られず民主主義社会の情報媒介ツールとしては危うさがある。

今春闘の賃上げ率は1993年以来の高い水準になったが、物価上昇率を差し引いた実質値は例年とほとんど変わりない。経済全体の実質賃金は著しく低下、賃金分配率も下がって事態はむしろ悪化している。

日本の賃金が長期的に上がらない最大の理由は産業構造が古い構造のまま固定され、新しい企業や技術、ビジネスモデルが現われないことだ。”円安政策”はそれを促進し金融緩和を続ければこの状態がさらに続く。

現在の制度のままだと、厚生年金は2040年代の前半に積立金を使い尽くして財政破綻する。これを回避するには年金支給開始年齢の再度の引き上げなど年金制度の改革が喫緊の課題だ。

年金財政を破たんさせないために年金支給開始年齢の再引き上げが喫緊の課題だ。しかも早く始めるほど、引き上げる年齢を低くできる。来年の財政検証でこの議論を提起すべきだ。

国会で審議中の「財源確保法案」など、防衛費増額の財源として検討されているのは、歳出削減や増税ではなく、「防衛力強化資金」と「決算剰余金の活用」だ。実質的には赤字国債で防衛費を賄うことを分かりにくくするトリックだ。

年金財政が破綻しないと政府は言ってきたが、直近の年金財政見通しを見ても実質賃金の伸び率を高く想定している。現実的な値を想定すれば年金の支給開始年齢の再度引き上げを考えざるをえなくなる。

生産性向上や高度人材確保にジョブ型雇用の導入が必要と言われるが、日本の報酬体系や退職金制度が障害になる可能性がある。ジョブ型雇用の普及には雇用制度の基本が変わる必要がある。

今春闘の好調は22年の原価の大幅な上昇を販売価格に転嫁でき粗利益が増えたからだ。しかし直近では輸入物価下落ともに粗利益の伸びも鈍化している。賃金が継続的に上昇していくのは考えにくい。
