野口悠紀雄
国会で審議中の「財源確保法案」など、防衛費増額の財源として検討されているのは、歳出削減や増税ではなく、「防衛力強化資金」と「決算剰余金の活用」だ。実質的には赤字国債で防衛費を賄うことを分かりにくくするトリックだ。
      
    
年金財政が破綻しないと政府は言ってきたが、直近の年金財政見通しを見ても実質賃金の伸び率を高く想定している。現実的な値を想定すれば年金の支給開始年齢の再度引き上げを考えざるをえなくなる。
      
    
生産性向上や高度人材確保にジョブ型雇用の導入が必要と言われるが、日本の報酬体系や退職金制度が障害になる可能性がある。ジョブ型雇用の普及には雇用制度の基本が変わる必要がある。
      
    
今春闘の好調は22年の原価の大幅な上昇を販売価格に転嫁でき粗利益が増えたからだ。しかし直近では輸入物価下落ともに粗利益の伸びも鈍化している。賃金が継続的に上昇していくのは考えにくい。
      
    
統計データは経済分析で重要だ。対話型検索エンジン「Bing」は、100%信頼できるかは怪しいが、使い方によってはかなりの手助けになる。賢い答えを得るには的を絞った質問をすることだ。
      
    
政府が2018年に社会保障給付と負担の長期見通しを示した資料で、ゼロ経済成長を想定すると、一人当たりの負担は4割も増加するとしました。しかし、社会保険負担引き上げの具体策に対する議論はほとんど行われていません。一方で、政府は2020年「全世代型社会保障」を打ち出しました。しかし野口悠紀雄・一橋大学名誉教授は、それは目くらましにすぎず、社会保障制度が抱えている最も深刻な問題は何も解決されることがないと言います。前回に続き野口先生の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書)より抜粋して紹介します。
      
    
生成系AIはメールの代筆や文章の要約などはすでに人間を超える能力を発揮する。だが新しいアイデアを出したり小説を書いたりするなど、クリエイティブな仕事は難しく、まだ人間の方が優れている。
      
    
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に着手するなど、出生率の低下は日本の喫緊の課題とされています。最近の出生率の低下は、高齢化社会や労働力人口など、日本の将来にどのような影響を与えるのでしょうか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏の著書『2040年の日本』(幻冬舎新書)より抜粋して紹介します。
      
    
今春闘への期待が強いが、賃金分配率はほぼ一定なので、これを引き上げて賃上げを実現しても一時的だ。継続的な賃上げ実現にはデジタル化などでサービスや流通業の生産性引き上げが不可欠だ。
      
    
電気機械の貿易黒字の縮小が顕著だ。今や中国に依存しないとデジタル化もグリーン化も進められず、自動車も安泰ではなくなり始めた。このままでは貿易立国日本が生き延びる途はなくなってしまう。
      
    
サービス収支の赤字は2022年には8割以上が「デジタル関連」で、日本は通信・コンピュータ・情報サービスで世界最大の支払い超過国だ。安売り分野は黒字になるがハイテク分野は赤字になる日本経済の現状を象徴する。
      
    
日銀が金融緩和で続けるイールドカーブ・コントロールは、日本国債のほとんどが国内消化され国債市場が鎖国状態だからこそできる。だが貿易赤字拡大は日本が海外からの投資に依存せざるを得ない日が来ることを示唆する。
      
    
日銀の新総裁、副総裁候補が近く国会に提示されるが、日銀新体制はノーマルな経済への軟着陸を実現するために、(1)物価目標の取り下げ(2)YCCの停止(3)円の価値の維持(4)財政放漫化加担からの転換に取り組むべきだ。
      
    
日本のソフトウエア技術者の賃金は、アメリカの3分の1で、韓国や中国より低い。日本では専門家が冷遇されており、これでは高度人材が海外に流出し、未来の国全体の所得にも影響する。
      
    
米大手IT企業が大規模な人員削減に乗り出したのは、コロナ禍で急速に人員を増やし過ぎた反動だろう。トップクラス技術者の年収は極めて高く人材獲得競争は激化している。日本企業は競争に生き残れるのか。
      
    
日本銀行はYCCの長期金利の上限を現在の0.5%のままで据え置く決定をしたが、昨年12月の政策変更にもかかわらず10年物国債金利が上限を超える超えるなど事態は悪化している。
      
    
日銀は長期金利上限を0.5%に引き上げたが、根拠ははっきりしない。金融政策は自然利子率の概念を使って運用すべきで、この基準では日本は過剰な緩和状態が続き経済はむしろ弱体化した。
      
    
日銀のイールドカーブコントロールの長期金利上限変更は、市場の圧力に屈する形で金融政策の修正の必要性を浮き彫りにした。今後、金融政策の手法や目標の見直しでは円の対外的価値の維持が重視されるべきだ。
      
    
#8
      
      
      日本銀行が12月20日に決定した長期金利の上限引き上げは、金融緩和政策の出口に向けての第一歩だ。これから、金利や為替レートが大きく変化する。ただし、賃金の停滞や円の購買力低下などの基本問題は残っている。
      
    
金融緩和策の修正で金利や為替レートは今後大きく動くだろう。輸入物価の低下で「物価高騰問題」も来夏前には収束しそうだが、国際的地位の低下や賃金の長期停滞など日本の根本問題が解決されることにはならない。
      
    