
西濵 徹
オーストラリアは新型コロナウイルスの感染抑制の優等生。ワクチン接種も進展し始めた。2020年は29年ぶりのマイナス成長となったが、足元の景気は国際商品市況の回復、財政・金融政策の総動員もありV字回復の様相を見せている。景気回復期待から長期金利は上昇し、豪ドル高が続いている。

新型コロナウイルス感染抑制に成功した台湾。世界の貿易量の減少などで20年前半はマイナス成長に陥ったが、後半からは回復。20年の成長率は2.98%と19年を若干ながらも上回った。世界的な半導体不足を武器にワクチン確保も進めつつある。21年は20年をさらに上回る高成長となりそうだ。

マレーシアでも年明け以降新型コロナウイルスの感染は急拡大している。緊急事態宣言が発令され、UMNO(統一マレー国民組織)とムヒディン政権との政争は一時停戦となった。時間を稼げる間に、感染を収束させ経済の立て直しを図れるのか。ムヒディン政権は正念場に立っている。

バイデン新政権誕生による米国からの圧力緩和、原油価格上昇などでメキシコの通貨と株価は上昇し、金融市場からの期待は高まっている。しかし、上向かぬ家計心理、落ち着く気配のないインフレ、高止まりの失業率などメキシコ経済は依然浮上しておらず、先行き不透明な状況が続いている。

#13
第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部主席エコノミストである西濵徹氏に2021年の新興国経済の先行きについて予想してもらった。新型コロナウイルスの感染状況が大きく左右する状況は2021年も変わらないが、世界貿易の底入れ、ドル安を背景とした資金流入で新興国の成長率は上振れするとみられるが、主要国が早期に金融政策の正常化に動いた場合に、財政収支や経常収支が悪化している新興国が窮地に立つ可能性はある。

インドネシアでは依然として新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。輸出は立ち直りの気配が見えるものの、消費など内需は冷え込んでいる。金融・財政政策を総動員し、外国からの投資を促進する法案を成立させるなど景気対策を講じている。一方、政治不信が高まっており、国是である「寛容さ」にも圧力が強まりつつある。

トルコリラの下落が止まらない。ドル安基調が続く中でその弱さは際立つ。周辺地域での地政学リスクの高まりが重しになっている。米大統領選挙でバイデン氏が勝利すれば対米関係が一層悪化する懸念もあり、先行きの悪材料となっている。年初からの下落に対する介入で外貨準備高も激減しており、デフォルトの可能性も高まっている。

新型コロナウイルス感染拡大のピークは過ぎたと思われる南アフリカ。経済活動も再開され、企業心理も急速に改善している。しかし、雇用関連指標は低空飛行のままで、家計の心理は上向かない。景気回復の足取りは重く、通貨ランドは上値を追えない状態が続いている。

ロシアでは、新型コロナウイルスの新規感染者数がピークをつけ、経済活動への制限も徐々に解除されつつある。延期されていた対ドイツ戦勝イベント、憲法改正の国民投票など国威発揚を意図したイベントも相次いで実施された。経済に明るい兆しが差し込んだようにみえるが、野党指導者の服毒への疑念などで対EU関係は悪化の公算が大きくなりつつある。新たな懸念が通貨ルーブルの足を引っ張っている。

29年にわたる世界最長の景気拡大を続けてきた豪州経済。その拡大局面が終わりを告げそうだ。大規模な森林火災でダメージを受けていたところに、折からの新型コロナウイルス感染拡大による経済活動停滞がダメ押しとなった。いったんは収まったかに見えた新型コロナの感染だが、6月中旬以降再び拡大に転じている。景気後退を示す2四半期連続マイナス成長の可能性が高まっている。

インドが内憂外観に直面している。年初から鈍化傾向にあった景気は、新型コロナウイルスの感染拡大で減速に拍車がかかっている。モディ政権は、経済活動正常化と感染封じ込めの両立を狙うが、感染収束の見通しは立たない。双子の赤字は依然解消されない上に、通貨安、中国との軍事衝突など難題が降りかかる。

ブラジルでは、新型コロナウイルスの感染拡大に拍車がかかっている。ボウソナロ大統領と各州との対立もあり、収束の見通しは立たず累計の感染者数は30万人を、死亡者数も2万人を上回り、折からの景気低迷に拍車がかかっている。景気回復も見通せず、通貨レアルの低迷も続いている。

韓国の総選挙は文在寅政権与党の大勝という結果に終わった。新型コロナウイルスへの対応が評価されたためだ。これまで国会においては少数与党であったが、今後は政権の政策を実行に移しやすくなる。とはいえ、コロナ抑制や世界経済減速により同国経済は大きく減速している。回復への道筋は見えていない。

マハティール氏の首相辞任後、与野党の政争が続くマレーシア。その落ち着く先は依然見えない。足元では、コロナ禍の影響もあり、経済減速に拍車がかかっている。通貨リンギ、株価も下落している。

近年、中国を中心とするアジア新興国ではグローバル化の進展に併せる形で網の目のようにサプライチェーンが構築されている。中国の高成長も追い風に各国の経済成長が促される好循環がみられたものの、足元では一転してそうした状況がリスク要因となりつつある。東南アジアのなかでは製造業の集積度合いが高く、特に自動車関連産業が集積していることから「アジアのデトロイト」とも称されるタイでは、足元の中国国内での生産停止に伴うサプライチェーンの寸断が同国経済の痛手となることが懸念されている。

台湾の総統選挙は民進党の蔡英文氏が勝利し、同時に実施された立法委員選挙においても民進党が過半数を確保した。中国に対する対決姿勢が勝利の要因とされることが多いが、実は台湾経済が底堅さを見せ始めたことも理由の1つである。

グローバル化による世界的なサプライチェーンを背景に成長してきた新興国経済。しかし世界貿易を見ると18年末をピークに頭打ちとなり、足下では前年を下回る水準で推移するなど弱含みで、世界経済の足を引っ張っている。経済成長を享受してきた新興国及び資源国にとって、米中貿易摩擦はまさに青天の霹靂ともいえるリスクだ。2020年、各国の視界は開けるのか。

昨年来の米中摩擦の激化などを背景に中国の景気減速が継続するなか、最近の世界経済においては、中国経済に対する依存度の高い国を中心に玉突き的に景気の足が引っ張られる状況が続いている。

南アジアのスリランカでは、今月16日に5年に一度の大統領選挙が実施された。同国では1980年代から約30年にわたる内戦が続いてきた。2005年の大統領選を経て誕生したマヒンダ・ラジャパクサ元政権は、中国やスリランカなどによる大規模な軍事支援を得た。その結果、09年に内戦は終結を迎えた。

南米のチリでは、今月に入って以降に首都サンティアゴで学生デモが発生して一部が暴徒化した結果、ピニェラ政権がサンティアゴ周辺に非常事態宣言を発令する異常事態となっている。昨年来の国際金融市場の動揺などに伴い通貨ペソ相場が下落し、輸入物価への押し上げ圧力が強まったことで燃料価格への上昇圧力が強まるなか、政府が財政悪化に歯止めを掛けるべく地下鉄料金を引き上げたのが学生デモのきっかけである。
