社長は、社員に嫌われても、株主に嫌われても困る立場なのだが、目下、株主寄りの方向に利害の重心が移動しつつある(「経済合理的」ではある)。

 他方、安倍政権から見ると、デフレ脱却のための企業に対する「賃上げ要請」と、コーポレートガバナンス改革で要求している「ROE目標」は、明らかに相反する方向を目指しているが、社長の利害から見て、賃上げよりもROEが強いのが現状だ。

社長の報酬を決める要因の順番
最近は「株主の意向」を優先

 企業の場合、社長の報酬は、主に以下の要因で決まっていたように思う。(A)株主の意向、(B)従業員の意向、(C)顧客や世間の反応、の3つだ。

 過去には、株式持ち合いで株主の影響が封じ込められていたことなどを反映して、日本企業の社長(特にサラリーマン社長)は、(B)を最も気にする「社員の長」だった。

 しかし、これが株主の力が大きくなることで、(A)に移行しつつあり、株式会社にあって「(株式)会社の長」になりつつあるようだ。

 この変化は、社長自身にとって経済的に好都合だ。同じ業績でも、株主の利益を指向する施策を採ることで、自分の報酬を上げることが出来るからだ。典型的には、自社株買いを行って、株主に現金を渡し、ROEを上げたらいい。

 純粋な予想の問題としては、サラリーマン社長にあっても、社長の報酬はもうしばらく増加する傾向だろう。

 日本企業は横並びを気にするから、同業他社の動向を見ながら徐々に上げて行けばいい。(B)に関しては、トップと幹部の報酬を上げることが、社員のモチベーションにつながる面を強調すればいいし、所詮会社側に選ばれる社外取締役や、報酬委員会といった存在が、社長の報酬を正当化するほどよい賛成者として機能する。

 資本効率を上げること自体は好ましいケースが大いにあるので、これを一律に敵視する必要はさらさらないが、経済政策上悩ましいのは、賃金との関係だ。

 経営者の利害の重心が、従業員を中心とする会社組織から、株主の側に移行することで、賃金(人件費)はより抑制されやすくなるし、非正規労働者の利用をなるべく増やしたいとも考えるはずだ。コストを抑えて、利益を出そうとするモチベーションはもともと存在したが、それがもっと強力になる。