日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきたトップレベルのエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?そのエッセンスを紹介する連載の第3回です。
「質問」が、社長になる人・ならない人の差を生んだ
「良い質問」は他者に対して大きな気づきを与えることができますが、それだけではありません。
すでにお話ししてきたように、「良い質問」は、それを自分に向けることで、自分自身の人生の可能性を、大きく広げていくこともできるのです。
それは、いわゆる「社長」と呼ばれる人を見れば、明らかです。
私のクライアントが経営するような大企業には、毎年、何十人、何百人もの新入社員が入社してきます。数年間で何千人もの社員が入ってくる会社もざらにあります。
何十年か経って、その何千人の中から、その会社の社長になる人が1人出てきます。この社長と、それ以外の方の大きな違いはなんだと思われますか?
何百人もの社長にお会いし、直接お話をしてきた私は、「質問」こそがその差を生んだと確信しています。
極論すると、社長になる人は、「自分が社長だったらどうするか?」「自分が社長なら、この問題にどう対処するか?」といった質問を、他の人よりも多く自分自身に対して投げかけ続けてきたのです。
若いときから社長になりたくて、自らこういった質問を自分に投げ続けてきた人もいるでしょう。他にも、上司からこういった質問を繰り返しされ続けてきた人、あるいは、将来の経営者を育成するための社内の選抜研修プログラムでこういった質問に対する答えを求められてきた人、経営戦略などの仕事に就いたために業務上こういった質問を繰り返した人、さまざまなパターンが考えられます。しかし、いずれにしても、社長になるような人は、社長になるための質問を自分にしてきた人なのです。
そう考えると、企業が将来の経営者を育成するために、ケーススタディに取り組ませて、「あなたが社長だったらどうするか」という質問に答えさせる研修を行なったり、見込みのある社員に海外の子会社の社長を経験させたりする理由も納得できるでしょう。こうした取り組みによって、「自分が社長だったらどうするか?」という質問を、その人の中に植え付けることができるからなのです。
「社長になる」とまでいかなくても、仕事ができる/できないというのも、結局のところ、「どれだけ効果的な質問を、自分の中に作り出せているか」で決まるように思います。
たとえばコンサルタントがよく使うフレームワークという概念。これも切り口を変えた「質問」と言えるでしょう。会社や商品を、強み/弱みといった特徴で分類する「SWOT分析」、市場環境を政治・経済・社会・技術で考える「PEST分析」など、フレームワークにはいろいろありますが、結局は「こういう切り口で考えたらどうなる?」という問いを提供しているのです。