目的の設定がいちばん重要

佐渡島 森岡さんは、社内で定期的にマーケティングを教えているんですよね。一番はじめに教えることはどんなことなのですか?

森岡 戦略のところですね。

佐渡島 まずは、目標を立てるということですか?

森岡 そうです。

佐渡島 ファーストステップとして、大きな目標を立てて、戦略に落とし込んでいくという考え方のところですね。

森岡 佐渡島さんの『ぼくらの仮説が世界をつくる』では、仮説からスタートして目的を設定する重要性を話していますよね。まさに、その目的の設定の部分が実は一番重要で、それがないと戦略は存在しない。

 達成したい目的ができたとしたら、このように考えて、その達成確率を高めていくという、その戦略のフレームワークを『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』でまとめたというわけです。

 私は、前職はP&Gでした。P&Gは、社内の教育機関がすごくしっかりしていて、私はそこで社内大学の校長を7年間務めました。ですから、教える技術を、必要に迫られて身につけていったわけです。いろいろなケーススタディとかトレーニングのモジュールみたいなものを開発して、試行してみて、反応を見る。「わかりにくくなかったか」「こっちのほうが面白いか」とか試行錯誤したノウハウが頭の中にあるわけです。それをUSJでも試した結果、短期間でものすごい力が付いたのです。

 重要なのは「共通の言語をつくる」ということ。共通言語がないと、会話が成立せず、「なぜあなたが考えていることを、私はヤバいと思っているのか」がチームの中で伝わらないですよね。そういう意味で、まずはマーケティング部に戦略の話をして、それから「マーケティングとは何なのか」という話をしました。これを各社員が習得することで、共通言語ができ、目線があうんですよ。

佐渡島 共通言語をつくるんですね。

森岡 はい。そして、「マーケティングとは何なのか」という概略を教えた後に、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』の切り口である、ターゲティングは誰か「Who」の話、そして、お客様が商品からどんなメリットを得られるかというベネフィット「What」の話、そして、いわゆるマーケティングの戦略である「How」の話を順番にします。

『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(森岡毅/KADOKAWA)

「Who」「What」「How」この3つが連続でうまくつながったとき、何が起きるのか。「Who」はうまくいったけれど、「What」で失敗して、しかし「How」がうまくいったらどうなるのか。そうした事例を、最後の段階で共有して、実際この会社のリアルな課題をチームに投げかけて解決に当たらせるわけです。

「来年の夏のプログラムが弱い」という課題であれば、「何か新しいことを考えろ」となります。そして、「目的は、十万人の追加集客の獲得である」という設定がなされ、「予算がこのくらいしかない。さぁ、考えろ!」となる。

 こうしたケーススタディを実際させて、今習ったマーケティングの考え方を実際に使ってみるということを大切にしている。そこまでをトレーニングの中でやって、そして、実際の仕事の中に生かしていくわけです。

佐渡島 なるほど。

森岡 しかし、だいたい3ヵ月くらいで、人間は忘れるものです。そこで、このトレーニングを3ヵ月周期でやることにしています。つまり、1年間で、だいたい3、4回くらい。さらに、四半期に1回ずつくらい、私との接点を設け、直接「この3ヵ月のあいだ、何をやりましたか?」「この前学んだ戦略のことで、仕事の中でどう活かしましたか?」みたいな話をしていきます。これが、だいたい1年間のプログラムですね。それで、だいたい『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』『確率思考の戦略論』の一冊分を、もう少し実践的な知識を持って、頭の中に入れていくイメージです。

 とはいえ、実は数学適性がある人にしかわからない部分があるので、マーケティング企画部の中で、若い理系脳を持った人とか、文系でもこれを理解できる人を集めて、よりセレクティブに教育を行うということもしています。

佐渡島 どれくらいの人が、戦略や戦術的な思考というストーリー性のあるところから、具体的な数字を入れて考えられるようになるのですか?

森岡 私のトレーニングでは、ほぼほぼ全員ができるようになります。

佐渡島 そこまで成長できるのですね。すごい!

森岡 なりますね。経験値ですが「戦略的思考」っていうのは、考え方のフレームワークの話であって、クセの問題だと思うんです。ただし、戦略的フレームワークに従って考えられるようになった結果、何が生まれてくるかという最後のアウトプットの部分は、元々の知性や素養による部分が大きい。頭の構造とか、感性とか、いろいろなものが組み合わさって必要になってきます。

 しかし、フローに従って、フレーム的に考えていくことは誰にでもできると思います。考え方のクセの問題なので。長い人生フレームワークを使わずに生きてきた方は苦労されますけれどね。

 たとえば、「How」から考えるのがクセになっている人は、「具体的な目的が示されないと、想像できない……」といったことを言われます。若い人は慣れるのが速いですよ。でも、50歳過ぎの方でも、ちゃんと習得していらっしゃいますし、クセの問題なので、「こういう順番に従って考えたら、成功する確率が高まる」ということを覚えてしまえばいいんです。まず、そのレベルにまでステップアップできるかどうか。そして、ステップが上がったときに、実際に使ってみたいと思えるかどうかが重要だと思っています。

(明日に続きます)