原告たちはなぜ「自分たちが
訴訟するしかない」と思ったのか?

白木敦士(しらき・あつし)氏 
愛知県出身。早稲田大学法学部。早稲田大学大学院法務研究科を修了後、司法試験に合格し、2012年より弁護士に。憲法・外国人の人権・いじめ・社会的包摂など、数多くの社会的課題に取り組んでいる

 原告として国を訴えることができるのは、「生活保護費削減」という被害を受けた生活保護の人々たち以外にはいない。でも、「弁護士が動かした」というわけでもない。

「2013年8月、最初の引き下げと当事者の方々による審査請求が行われていた時期には、弁護士の方から積極的に『訴訟をしましょう、弁護は引き受けますから』と明言していたわけではないんです。東京においては、このような集団訴訟に携わろうとする弁護士は少なく、人手不足状態が続いていました。なので、まずは、行政段階の不服申立手続である審査請求について、法的支援を行うことで精いっぱいでした」(白木さん)

 どのように、当事者たちは提訴に踏み切ったのだろうか?

「何が原告の方の原動力になっているのか、原告の方々に尋ねたことはないのですが、『社会運動によって何らかの効果に結びつけることも難しく、行政や立法による救済の可能性は低い』と思われたのではないか、と推察しています。すると、残る救済ルートは、司法です。裁判所に対して、生活扶助費引き下げの不合理性を主張する過程で、世論が何か大切なことに気づいて変わることもありうるかもしれません。すると、何らかの結果に結びつくかもしれない。そのように思われたのではないかと考えています」(白木さん)

 しかし、最高裁判決までは長い道のりになりそうだ。10年以上かかるかもしれない。

「訴訟に踏み切られた原告の皆さんは、大変よく勉強されていて、今回の引き下げの不合理性に憤っておられます。その意味で、本当に気力のある方々です。だから、生活保護で暮らす方々の代表になって、『自分たちが矢面に立って、声を上げていこう』と思われたのかもしれません」(白木さん)

 2013年の生活保護基準引き下げの理由とされたことの一つは、一般低所得層と生活保護世帯の消費実態が「比較」された結果、生活保護世帯の消費水準の方が高かったことである。しかし、この「比較」は、「引き下げやむなし」という結論を導くためとしか見えない方法によって行われている。また、厚労省は独自の物価指数「生活扶助相当CPI」を導入し(「政策ウォッチ編」第52回参照)、実際には存在しなかった大幅なデフレを導き出し、引き下げの理由の一つとしている。原告たちが憤っている「不合理性」とは、これらのことである。

 加えて、「当事者のことは、当事者にしかわからない」ということもある。

「一口に『貧困問題』と言っても、地域によって問題の性質が違います。たとえば東京であれば、『都市型貧困』という大都市特有の貧困事情があります。実情を伝えられるのは、当事者の皆さんでしかないと思います」(白木さん)