バーバラ・ミントの「ピラミッド原則」といえば、世界の一流コンサルタントが必ず学ぶ論理思考・文書ライティングのバイブルです。昨今では、プレゼンやリポートで、スライドやパワポを使用するケースが増えてきています。ピラミッド原則をスライドで使うにはどうしたらよいか、との疑問に答え、『入門 考える技術・書く技術【スライド編】』が登場しました。待望の新刊より、第1回に続き、内容の一部を紹介します(最終回)。
スライド作成に誤解あり
なぜこのようにわかりにくいスライドが蔓延するのでしょうか。その理由の1つは、あるべきスライドに関して、大きな誤解があるためではないかと考えます。そして、その誤解を増長させているのが、世の中にあふれているスライド作成術の書物やアドバイスではないかと考えます。
5分でOKが取れるプレゼン資料?
「5分で一発OKが取れるプレゼン資料作成術」「感情を動かすプレゼン資料作成術」「直感的に理解できるスライド作成術」……世の中にはスライド作成に関する書物があふれています。しかし、あなたは本当に5分でOKが取れるようなスライド・プレゼンをしたことがあるでしょうか?
私にはありません。そもそも5分でOKが取れるプレゼンというのは、実質1人の決定権限者が即断即決するような状況です。だったら、わざわざプレゼンなどせずに、紙1枚で直接説明をする方が手っ取り早いはずです。あるいは、もしかするとそのプレゼンの目的はOKを取るというよりも、他のプレゼン参加者に決断内容を共有させることにあるのかもしれません。だとすれば、かなり特殊な状況と言えます。
世の中には5分で説得しなければならないプレゼンもあるのかもしれません。あるいは、感情や直感に訴える説明が大切になるプレゼンもあるでしょう。しかしそれは、稀なケースといえるのではないでしょうか。
あなたに求められるスライドとは?
あなたが普段作成しているスライドとはどのようなものでしょうか。例えば、経営陣向けの新事業の企画提案、上司に対する販促企画の提案、代理店向けの新商品の説明、営業店に対する新業務システムの説明などなど。
当たり前のことですが、内容が重要になればなるほど、報告・提案の内容は様々な観点から深く冷徹な検討が重ねられます。多額の投資を要する新製品の企画提案に対し、わずか5分のプレゼンで決断を下すことは普通の企業ではありえません。また、論理的な検討なしに、感情や直感に基づいて決断を下すこともないでしょう。
また、このような重要案件では、通常は口頭のプレゼンだけでは済みません。事前に使用するプレゼン・スライドのコピーを参加者に配布するはずです。プレゼンテーターはこのスライドをプロジェクターで照らしながら説明を加えます。プレゼン参加者は、配布されたプレゼン・スライドをプレゼン終了後に読み返し、内容を熟考するかもしれません。あるいは、プレゼン欠席者はこのプレゼン・スライドだけを、報告書として目を通します。
この場合、スライドは独立した文書報告書として通用するものでなければなりません。もうおわかりのように、このようなスライドは、5分でOKが取れる「プレゼン資料」とはまったくの別物なのです。
その違いを認識していないと、本来ビジネスの多くを占める、重要でロジカルなプレゼンが求められる状況に対応できなくなってしまいます。なぜなら、「重要でロジカルなスライドの作成」は、「5分でOKの取れるプレゼン資料の作成術」と比べ、はるかに本質的な作業を必要とするからです。
スライド・レポートの基本は「考えの構成」である
スライド・レポートで重要なのは見映えではありません。ビジュアルではありません。見映えもビジュアルも重要ではありますが、最も重要なのは中身、すなわち、そのスライド・レポートで伝えようとしている「考え」です。
スライド報告で重要なのは5分でOKが取れることではありません。たしかに、通常、そのスライドで伝えようとする結論メッセージは1分程度で伝わらねばなりません。また、プレゼン終了時には、なぜそういう結論に至ったのか、そのロジックも共有できていなければなりません。しかしそれでも、5分で納得させられるかどうかは別問題です。最も重要なのは、プレゼン参加者が1時間かけて検討しても、プレゼン後に丸一日かけて検討しても、結局その内容に同意することになる、それだけの説得力を備えたものであるということです。
スライド・レポートの目的が「自分の考えを聴衆に伝え、聴衆がその考えに納得する」ことである限り、文書であれスライドであれ、作成の基本アプローチに違いはありません。まずは、スライド作成に入る前に、スライドで伝えようとする「考え」を明確にすることです。この際のポイントは3つあります。
第一に、読み手(聴衆)の状況・関心を正確に理解すること。
第二に、自分の考えを明確に表現すること。
第三に、自分の考えを説得力あるように組み立てること。
ただし、明確になった考えをスライド上で表現するにあたっては、文書作成以上の注意が必要になります。スライドの場合、プレゼンに使用されるという特性上、文書と比べ、守らなければならない制限やルールが存在するからです。
それではまず、本書が対象とするスライド・レポートとはどのようなものか、そこから始めることにしましょう。
(連載終わり)