精神が老いているほど昔話をしたくなる?

 またキルケゴールは「青年は希望に幻影を持ち、老人は思い出に幻影を持つ」とも提唱している。

 まだ気持ちが若い青年期は将来の可能性、未来の展望など「希望」のヴィジョンを膨らませ頭に描くが、精神が老いてくると「あの時はこうだったなあ……」と希望ではなく過去の思い出や昔であった出来事ばかりを頭に描きはじめてしまうものだ。

 体の衰えは受け入れていかなければいけないものであるが、精神性においては自ら若く保とうとすることが出来る。

 過去の出来事ばかりを振り返るようになったら、年老いたことを悔やむのではなく「希望」を描くことも重要となる。

放蕩を経験し「生きる意味」を見つめたキルケゴールの教え

 キルケゴールはデンマークの哲学者である。

 もともと裕福な家に生まれるが、家庭環境と父親との確執があり、絶望しながら放蕩の時期を過ごした哲学者でもある。

 生真面目で順当な人生ではなかったものの「自分にとって正しいことはなにか?」を熱心に追求し、自分が正しいと思う価値観を最後まで貫いた哲学者である。

 万人に共通する「幸せの答え」がない現代において、自分にとっての幸せの形と向き合い、生涯貫いたキルケゴールの教えには人生の指針となりえる、胸を刺す言葉がたくさんつまっている。

原田まりる(はらだ・まりる)
作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター
1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。著書に、「私の体を鞭打つ言葉」(サンマーク出版)がある