ラスベガスのトランプ所有のホテル(写真上)と、そのロビー

 その時刻、同ホテルで客室清掃係として働くカーメン・ラルール(64歳)は、床に這いつくばって浴室を掃除していた。アルゼンチン出身の彼女は、同ホテルに勤続4年、現在の時給は14ドル80セントだ。ラスベガスの労働組合に加入している他のホテルワーカーたちより、約3ドル低い時給だ。

「うちのホテルのオーナーのミスター・トランプは、私たちを二流市民として不当に扱っています。私がユニオン(労組)のバッチを胸につけていたら、いきなりクビにされたんです」と彼女は語る。

 ラスベガスのトランプホテルの従業員たち約500人は、労働条件の改善を目指し、昨年労組を結成した。ネバダのホテルやカジノの5万7000人の従業員を代表する労働組合「Culinary Union 226」の広報を務めるベサニー・カーンによれば、同ホテルのオーナーであるトランプは、労組の結成を阻止しようと、ユニフォームに労組のバッチをつけていた彼女ら5人を脅し、解雇したという。

 その後、国の労働監督機関が介入。ラルールらは職を取り返したが、トランプが労組との交渉に応じないため、彼女を含む500人の従業員たち全員の給与は、いまも安く抑えられ、組合員なら無料で使える医療保険も使えず、企業年金もない。トランプホテルの従業員のうち、約7割が女性で、中南米からのヒスパニック系移民が圧倒的に多い。

トランプホテルで働きながらも
ヒラリーに投票した女性の勇気

投票日当日、トランプホテルの車寄せで

「ミスター・トランプは私たちのボスで、私は彼のホテルを清掃するために一所懸命に働くけれど、私の1票は彼のものではありません。組合を保護すると約束したヒラリーに、仲間たちと一緒に投票してきました」

 以前はトランプからの報復を恐れて自分の主張を口にできなかったが、一度解雇されてから、たとえ大統領候補であっても法律で保証された労組結成の権利を阻止することはできない、と気持ちを切り替えた。

「今後、正当な契約を勝ち取るまで闘い続けます」

 投票日の夜、仕事と投票を終えて労組本部に足を運んだ彼女。カフェテリアに設置されたテレビの中継でクリントン当確の州が発表されるたび、同じトランプホテルの同僚たちと飛び上がって喜んだ。組合が用意したマリアッチの生バンドの演奏で、陽気なラテン音楽に乗り、身体をスイングさせる。

 ラルールのように、ホテルやカジノ業界で働く移民たちが、ラスベガスを中心に、ネバダ州全域のヒスパニック系の民主党候補への投票率を押し上げてきた。ミドルクラスが消滅しつつある現在の米国。昔のように、強力な労働組合に守られた職場は少数だ。