→答えは、「タイムズ」を展開するパーク24の<br />カーシェアビジネスが黒字化できた秘策とは?拡大画像表示 です。

重ねる技術:
虫の目で事業を詰める

 違いをもたらすのは、小さい違いにすぎません。ただ、その違いが大きいのです。日本では2002年からカーシェアビジネスが始まっていましたが、ニュースでたまに見る程度。「周りで使ってるよ」という人はほとんどいませんでした。

 なぜか?それは「シェアする文化が日本に馴染まなかった」などという小難しい話ではなく、「借りたいときに近くで借りられなかった」からです。
カーシェア業者は日本全国に普及させるために、あちこちにカーシェアスタンドを作りました。しかし、それが裏目に出て、借りづらさにつながったのです。

 事業計画的には「全国展開します!」のほうが美しいのですが、使う側からしたらどうでしょうか。当然全国にあるより、自宅近くにあってほしいわけです。

 鳥の目で事業計画を作ってしまうと、「全国にカーシェアを展開すること」を目的にしてしまいがちですが、虫の目でユーザーの視点から考えると、「全国にあるけど借りづらいより、自分が借りやすいこと」のほうが重要です。

 大局的な視点は持ちつつも、使い手の視点で事業を詰めていくことが成功のカギとなります。

企業の強み・思い:
駐車場ビジネスの成功からさらに発展したビジネスへ

 パーク24は地主と契約を結び、時間貸し駐車場「タイムズ」を展開してきました。このビジネスモデルが優れているのは、不動産を持たずに全国展開できたことです。地主側も土地を寝かすことなく、短期間でも導入できて都合がよかったのです。駐車場を整備し、黄色い看板を設置するだけで、毎月一定の収入が見込めるモデルは受け入れられ、全国1万4000ヵ所まで普及しています。

 しかし、車の購入台数が伸び悩む今、さらに成長させるためには駐車場の数を増やすだけでなく、一駐車場の売上を増やす必要がありました。そこで目をつけたのがカーシェアビジネスだったのです。

生活者の本音:
家の近くにあったら、使いたいのに……

「車があったら便利だけど、買うほどではないな」という方も多いのではないでしょうか。いざ買ってしまうと税金や保険料、ガソリン代や車検代と、維持費だけでもけっこうかかるのでハードルが高いですよね。

 また都心の場合、公共の交通機関も便利です。そうはいっても、「ちょっとした子どもの送り迎え」「イケアへ家具の買い物」など車があったほうが便利なシーンは多々あります。ただ、カーシェアを利用しようとしても、徒歩15分以上かかることも。15分だけ借りたいのに、15分歩くなんて馬鹿馬鹿しいと、敬遠されていたのです。

 ましてやレンタカーの場合は、半日単位で借りる必要があったり、最寄りのレンタカーショップまで電車に乗って借りに行かなければならなかったりと、身近なサービスではありませんでした。

 生活者が借りに行くのが面倒という気持ちが勝ってしまい、「こんなとき、車があったら便利だなあ」という満たされない欲求は放置されたままでした。

重なりの発見:
徒歩数分で借りられるカーシェア

 パーク24取締役の川上紀文氏はこう語っています。

「私たちが持つデータを分析するかぎり、『クルマに乗る人が減っているわけではない』ということは明らか。もしかしたらクルマ離れと呼ばれる傾向は『クルマとのタッチポイントが減少している』『ニーズに見合ったソリューションを産業として提供できていない』ということが原因かもしれません。タイムズプラス(現タイムズカープラス)など、気軽に運転できる機会が増えていけば、クルマの魅力に気づいた人が購入に回るということもあるでしょう」

 車の需要がなくなったのではなく、「自家用車を所有するという行為」がミスマッチを起こしているだけだと気づいたのです。

 そこで、生活者の「車には乗りたいけど、わざわざ10分も歩いて借りに行きたくない」という思いと、「1万4000ヵ所の既存駐車場を活用できる強み」を重ねた結果、カーシェアをより身近なものとして根付かせることができたのです。

 虫の目で事業を見ていけば、行き詰まってしまった事業もまだまだ展開できるのです。


参考文献
・タイムズ駐車場について ホームページ

・「時間貸し駐車場最大手パーク24の情報システム戦略 『駐車場もカーシェアリングもシェアするビジネスという基本は同じ。TONICによって短期間に新規事業を確立』」、ダイヤモンド・オンライン、2011年7月19日配信