トランプ氏の腹心、スティーブン・バノン氏が「シリコンバレーにはアジア人CEOが多すぎる」と発言したことは、米国のIT・ハイテク産業にとって脅威になりそうだ。それは日本の家電メーカーにどんな影響を及ぼすのか

トランプ次期大統領の政策が
シリコンバレーに落とす影

 アメリカのリベラル層にとって、トランプ政権の誕生は日本人の想像以上にショックなようだ。ハーバード大学では、ショックを受けた学生に大学の心療内科の受診やカウンセリングを勧めている。ショックが大きいというのは、それだけ意外だったからでもある。

 意外な結果と言えば、日本でもトランプ次期大統領の政策に関して、不安視する声が上がっている。ただ、ほとんどの識者がトランプ当選を当てられなかったのだから、現段階でトランプが日本にとって本当に脅威となるのか、それとも選挙キャンペーン中の発言はあくまで選挙用のもので、実際にはそれほど怖くないのかといったことはわかるはずもないので、この連載でもトランプの話はスキップしようかとも考えた。

 ただ、トランプ氏の腹心でチーフ・ストラテジストのスティーブン・バノン氏が「シリコンバレーにはアジア人CEOが多すぎる」と発言したことはアメリカのIT・ハイテク産業にとって大きな脅威になるかもしれないと思い、今回はそのことについて筆者の考えを述べることにしたい。

 シリコンバレーに台湾・中国などのアジア系ベンチャー企業が多いのは、もはや必然とも言える。アメリカは1990年代以降、製造業そのものを放棄し、モノをつくらなくなった。その代わり、新しい技術開発やユニークな事業のコンセプトの開発に特化し、半導体におけるファブレス&ファウンドリーモデルのように、アメリカが開発を担当し、アジアは詳細設計と製造を担当するという役割分担が生じた。

 現在のIT・ハイテク産業は、シリコンバレーとアジアが一体となったエコシステムを形成している。トランプ氏からは「iPhoneをアメリカ国内で生産しろ」という発言まで出ているが、組み立てだけならアメリカでもできるだろう。

 しかし、液晶やカメラの撮像素子は日本でつくっているし、半導体やバッテリーなどは韓国や台湾でつくっている。アメリカでつくるとしても、ノックダウン方式の最終組立だけになってしまうだろう。その仕事にはそれほどの雇用創出効果はないし、むしろアップルというアメリカを代表する企業の経営の足を引っ張るだけだ。