プラセボ(偽薬)効果という言葉がある。有効成分が全くない偽薬を投与したのに、症状が改善する現象のことだ。
偽薬を「本物」と思い込むことで心身が反応すると考えられているが、そう簡単でもないらしい。
先日、ポルトガルの研究グループから「にせ薬と理解したうえで偽薬を飲んでも、腰痛が軽くなる」という結果が報告された。
試験対象は、少なくとも3カ月以上は慢性の腰痛に悩む成人男女83人(平均年齢44歳、女性が7割)。痛みで起き上がれない日が週に1日以上あり(4割が該当)、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの処方薬と、サプリメントで痛みをだましながら日々過ごす人たちだ。
対象者は、いつもの治療に追加して偽薬を飲む群と、通常の治療を続ける群に無作為に割り付けられた。その際「偽薬効果について聞いたことがあるか」という質問と、約15分間の偽薬効果に関する具体的な説明を受けている。
説明のポイントは、(1)偽薬効果はパワフルである、(2)心身は偽薬に対してパブロフの犬のように自動的に反応する、(3)楽観的な姿勢は偽薬効果を高めるが、特に必要ではない、(4)むしろ偽薬を21日間、真面目に飲むことがとても重要だ、というもの。
説明後、偽薬群に渡された薬のボトルには「偽薬・1日2回、2錠を服用」と明記したラベルが貼られていた。まるで冗談だが、結果は笑うどころではなかった。
試験開始3週間後の痛み評価は、偽薬群で「最大の痛み」と「通常の痛み」がどちらも30%低下。通常治療群は16%と9%の低下にとどまった。しかも、通常治療群の希望者にさらに3週間、偽薬を与えたところ、全ての痛みが有意に軽減したのである。また、試験終了後も17人の対象者が偽薬治療の継続を希望した。
ここから推測できるのは、15分足らずの説明がある種の「薬効」をもたらしたこと。どうやら「飲んで効く」と学習することが、治療効果を高める秘訣らしい。
逆にいえば、ろくに効果も知らず真薬を飲んでも最大限の恩恵は期待できないわけ。まったく人間というヤツは一筋縄ではいかない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)