「病は気から」なんて言うと、この科学の時代にとお笑いになる方もいるかもしれません。
でも、気持ちのありようが病気の改善を少なからず後押しをすることは医学的にもかなり実証されていることなのです。
プラセボ効果も、そのよい例といえるでしょう。プラセボとは偽薬、つまりニセの薬のことです。新薬の効果を確かめる臨床試験では被験者をグループ分けし、一方には本物の薬、もう一方には偽の薬(デンプンなど)を摂取してもらうようにします。これは二重盲検といって、被験者はもちろん、医師にも渡される薬の区別は知らされません。
興味深いことに、こうした試験では必ず偽薬を飲んでいた人の何割かも、対象となっている症状が改善されるのです。甚だしい場合、例えば頭痛や高血圧などでは半数近くが改善されることもあるといいます。
これをプラセボ効果と呼び、免疫学的には「薬を飲んでいるという安心感が副交感神経を優位にし、リンパ球という免疫細胞の活性を高めるため」と考えられているのです。
従来はあまり医者の間では顧みられなかったプラセボ効果ですが、最近は代替医療の一環として応用する医療機関も増えてきています。もちろん、実際に偽の薬を処方するわけではありません。患者さんに安心感を与え、病気に対して前向きな気持ちにさせることで、総体的な治療効果を高めることが目的です。
特に末期ガン患者などを対象にした終末医療機関では、この効用を重視しているところが少なくありません。広島市で終末医療に取り組んでいる土井クリニック戸坂の土井龍一院長は、このように言っています。
「私どもではサプリメントも用いますが、サプリ自体の効果以上に、それによって患者さんに生まれてくる前向きな気持ちがQOLを確実に改善させる点に注目しています」
大切なのは病と闘う気力をつくること―。プラセボ効果が示唆するところも、そのへんにありそうです。
(竹内有三 医療ジャーナリスト)