ユングの偉業は「ディープ・ワーク」で
成し遂げられた

 カール・ユングは20世紀で最も影響力のある思想家の一人になった。むろん彼の最終的な成功には多くの理由がある。しかし、本書では、以下に記す、彼のスキルへのこだわりに注目したい。彼の偉業にそれが重要な役割を果たしたことはほぼ間違いない。

ディープ・ワーク:あなたの認識能力を限界まで高める、注意散漫のない集中した状態でなされる職業上の活動。こうした努力は、新たな価値を生み、スキルを向上させ、容易に真似ることができない。

 ディープ・ワークは、あなたの現在の知力から価値の最後の一滴までを絞り出すために必要なものである。私たちは現在、心理学と神経科学の数十年にわたる研究から、ディープ・ワークにともなう精神の緊張状態が能力向上に必要であることも知っている。言い換えれば、ディープ・ワークは、20世紀初めの学問としての精神医学のように、多大な認識力を要する分野で抜きん出るのに必要な、まさしくそんな取り組みだった。

「ディープ・ワーク」という言葉は私が名付けたもので、ユングが使っていたわけではないが、この時期の彼の行動は、その根底にある概念を理解している人のものだった。ユングが森に石造りのタワーを建てたのは、ディープ・ワークを推進するためで、それは時間、エネルギー、そして金銭を必要とする課題だった。

 そのため当面の仕事はないがしろにもなった。ユングは定期的にボリンゲンに滞在することで診療に費やす時間は少なくなった。「彼を頼りにしている患者は大勢いたが、ユングはボリンゲン滞在をためらうことはなかった」(『天才たちの日課』より)。優先順位をつけるのに苦慮したが、世界を変えるという目的のために、ディープ・ワークは不可欠だった。