英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は民主党の小沢一郎元代表が東京第五検察審査会の「起訴議決」を受けて検察官役に指定された弁護士によって、政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で東京地裁に起訴された件についてです。多くの英語記事は、小沢氏が自民党長期政権を終わらせた「選挙戦略家」であり、「舞台裏で物事を動かす実力者」だと紹介した上で、この問題で与党・民主党内が大きく揺れていることを強調しています。(gooニュース 加藤祐子)
パワーブローカー
米『ニューヨーク・タイムズ』のマーティン・ファクラー特派員は、「日本の政党のパワーブローカー、起訴(Power Broker for Japanese Party Indicted)」という見出し記事を書いています。「パワーブローカー」とは物事の動きを決める実力者の意味。金融の世界で株の仲買人を「stock broker」と言いますが、「stock =株」を「power =権力」に置き換えると、意味が伝わるかと思います。権力を右や左に動かし差配する人物を意味するわけです。
ファクラー特派員は、「広く予想されていたこの司法の動きは、国の与党をさらに分裂させ、選挙を求める野党を勢いづかせるかもしれない」と書きます。「強制起訴」という日本の特殊な制度に相当する言葉がないため、通常の「起訴」にあたる「indict, indictment」という言葉を使っています(インダイトメント、と読みます)。
記事は、実際に起訴される前からその可能性で民主党はすでに割れており、菅首相は「もし小沢氏が起訴されれば辞任すべきだという立場を、前に示唆していた」と説明。今回の起訴によって、自民党に対する国民の支持が強まる可能性もあるとも書いています。
さらに「小沢氏が実力ある政治家であることは今も変わらないが、スキャンダルで党内の多くが小沢氏に背を向け、日本の国内メディアは彼を爪はじきにしている」と。最後の「爪はじき」のくだり、原文は「pariah」という言葉を使っています(パライア、と発音します)。辞書などで解説がありますが、インドのカースト制度を語源とする表現です。もっとも今はそういう身分差別的な意味はなく、ただ「大勢から毛嫌いされ総スカンを食らっている人」的な意味で「he/she is a pariah」と使います。英語メディアではたとえば北朝鮮やイランなどについても、この表現を使うことがありますが、日常会話でうかつに「彼・彼女はパライアだね」などとは絶対に言わない方がいいです。
ちなみにこのファクラー記者はこれまでも小沢氏について書いていますので、こちらやこちらをよろしければご参照下さい。
米『ワシントン・ポスト』のチコ・ハーラン特派員は「日本のパワーブローカー小沢一郎、詐欺罪で起訴(Japanese power broker Ichiro Ozawa indicted on fraud charges)」という見出しで、冒頭から小沢氏を「polarizing powerbroker(世論を分断するパワーブローカー)」と呼んでいます。「polarizing」は人の意見が両極に分かれる、好き嫌いや毀誉褒貶が激しく、その人の存在によって世論が分断されるという意味です。英語では政治の文脈でよく使われます(たとえば昨今のアメリカならサラ・ペイリン前知事やティーパーティー運動について、あるいはオバマ政権の医療保険改革について。前政権だったらチェイニー副大統領とか)。
記事は「日本の巨額債務や経済停滞を何とかするための諸政策について、首相が合意形成を図る」状況で、この起訴は小沢氏だけでなく菅直人首相の足をも引っ張るかも知れないと解説。さらに、党内にまだ「loyalists(忠誠を誓う人たち)」が集まる強力な一派をもつ小沢氏は「舞台裏の駆け引きが上手な人」で、「誤ったことはなにもしていないと主張」しており、「色々なことがあり、毀誉褒貶の多い」政治家人生を終わらせるつもりなどない様子だと書いています。
AP通信は、「日本の議会実力者が資金をめぐり起訴される(Powerful Japanese lawmaker indicted over funding)」という見出しで、小沢氏が「何ひとつやましいことはない」と報道陣に語った言葉を「I have nothing to be ashamed of (恥ずかしく思うことは何もない)」と英訳しています。
そしてこの記事も小沢氏を舞台裏の「wheeler-dealer(策士、やり手)」と呼び、「日本の有権者の多くが嫌悪するようになった古い密室政治を代表する」存在だと見られていると説明。また過去にはアメリカ人を「simple-minded (単純)」でキリスト教を「排他的な」宗教だと呼ぶなど「問題発言が過去にいくつかあった」とも解説しています。
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