「がんになったら、粒子線治療っていうのをやってもらうんだ。先進医療を受ければ、がんは治るんだろう。がんが治るなら300万円かかってもいい」

 懇意にしている焼鳥屋の親父さんが、こんなことを言うのを聞いて驚いた。

 ふだん、医療に関心のなさそうな親父さんの口から専門用語が飛び出し、先進医療という言葉が浸透している反面、誤解も大きいと感じたからだ。

 現在、がん(悪性新生物)の治療をしている人は152万人と言われており、次々と新しい治療法も開発されている。冒頭の粒子線治療は、高速の加速器で飛ばして炭素(重粒子)や陽子を照射しがん細胞をたたく新しい治療法で、国が定めた先進医療のひとつだ。しかし、「先進」という言葉のイメージが独り歩きし、「先進医療は優れた治療法」「先進医療を受ければ必ず治る」といった誤解も生まれているようだ。そこで、今回は「先進医療」にまつわる3つの誤解を解いていきたい。

<誤解 その1>
先進医療は最先端の優れた治療法だ!?

 新しく開発された治療法や新薬は厳しい治験をクリアし、安全性と有効性が認められてはじめて医療現場で使われるようになる。そして、実績を積み重ね、評価が定まったところで健康保険が適用され、どこの病院でも受けられる治療として広がっていく。

 言い換えれば、評価の定まらない治療によって国民の健康が損なわれないように、厚生労働省では安全性と有効性を確認し、広く一般に普及できる治療かなどを考慮して健康保険の適用を決めている。つまり、健康保険に収載されている治療は国がお墨付きを与えたともいえるのだ。

 健康保険で認められた「保険診療」は、医療費の3割(70歳未満の場合)を負担するだけで治療を受けられる。しかし、健康保険で認められていない治療は「自由診療」と呼ばれ、これを受ける場合は自己責任で費用も全額自己負担となる。日本では、この保険診療と自由診療を同時に行う混合診療が原則的に禁止されている。