予約のとれないレストラン「レフェルヴェソンス」の生江史伸氏が語る、東京のレストランが世界から注目される理由。(写真=山下亮一)

 東京を代表するレストランの1軒である西麻布の「レフェルヴェソンス」。最も予約がとれないレストランとしても知られている。

 顧客リストは東京のみならず国内、さらに海外まで。生江史伸(なまえ・しのぶ)シェフの料理を求めて、連日予約の電話が鳴っている。

生江史伸(なまえ・しのぶ)シェフは慶應義塾大学卒業後、料理の世界へ。「ミシェルブラストーヤジャポン」(北海道)や「ファットダック」(ロンドン)でスーシェフを務めたあと2010年に帰国。東京・西麻布に「レフェルヴェソンス」を開く

 食の都市としても知られる東京。外国からの訪問客も日本に住む我われと同様、ラーメン、寿司、焼肉、おにぎりとあらゆる東京の味を味わっている。レフェルヴェソンスもベースはフランス料理ながら、シェフ独自の解釈が加わることで他にはないオリジナリティの高さを誇る。それゆえ、海外でも評価が高いのである。

 米国のケーブルテレビ向けのニュース専門放送局「CNN」がレフェルヴェソンスに連絡してきたのも、生江シェフの手がける料理を「東京料理」の代表として取材したいという意図ゆえだった。

「生江シェフは日本の新世代のシェフを代表する一人だと思っています。彼のレストランはフランス料理を提供していますが、彼の料理のテクニックの多くは、日本に根付いていると言えます」

 そう語るのは生江シェフを取り上げた番組「カリナリージャーニー(世界食紀行)」を担当したシニアプロデューサーのアマンダ・シーリー氏だ。

「彼は、日本の農家や職人をこよなく愛し、彼らの「こだわり」を料理で表現しています。今回のプログラムで彼に最も興味が湧いた点は、彼が一度海外に出て働いたことで、日本の魅力や文化の素晴らしさに改めて気づき、日本に戻ってきた点だと思っています。彼は、常に日本の魅力や文化を学ぶことに積極的で、それを自分の得意分野である「料理」で表現することにすべてを捧げているので、CNNで紹介することを決めました」

蝦夷ジカの鞍下肉を薪で焼いたものにホタテ貝のムールリーヌを合わせるのが生江流で、赤ジソのソース

 2016年8月末にオンエアされた番組は生江シェフの「ジャーニー」という構成だ。番組のなかで生江シェフはさまざまな場所に足を運ぶ。京都と関東で茶葉や日本酒の生産者を訪ね、お茶をのみ茶道を体験し、田んぼのなかでおにぎりをほおばる。日本ならではの体験をこのジャーニーで重ねていく。

「CNNからこの話をもちかけられたとき、僕は東京のレストランの独自性を構成しているのは文化の多様性だと思い、それを番組で表現できたらと返事しました」

 生江シェフは当時を振り返ってそう語る。

「東京には世界の料理が集まっていて、僕たちはそれを自分のなかで混ぜ合わせてフィルターをかけて、自分の料理として表現している。東京だからこそレフェルヴェソンスの料理は出来るので、地方あるいは外国にいったら違う料理になるでしょう」

 土地の持ち味を活かす。その考え方は料理に端的に表われている。

 レフェルヴェソンスの料理はここで紹介しているように、食材をフルに活かすことを念頭に置いたものだ。ワインというより水のようなイメージだ。

 いい例がカブの料理。