「神事と結びついていたからです。田子地区では潮鰹はお正月に『正月魚(しょうがつよ)』という名前で、かつては各家庭でつくられて、神棚に供えるものでした。私が家業に入る頃には家庭でもつくる人が減り、かつお節屋がつくるようになってましたね。とは言っても今はかつお節屋自体が減り、西伊豆町で潮カツオを作っているのはうちと漁協くらいになってしまいましたが」

正月にカツオの身を少しずつ削いで食べていたようだ

 潮カツオは鰹の内臓を抜き、塩漬けし、寒風で乾燥させたもの。藁飾りがついているあたりが、いかにも正月の縁起物という雰囲気だ。

「かつて漁船の船長は神社に奉納した〈お下がり〉の潮カツオを正月、船員に振る舞ったそうです。それには意味があって、食べさせてもらった船員は『今年もよろしく』という意味、振る舞われなかった人は『今年は契約しないよ』ということ。つまり潮鰹は契約の証で、昔の雇い手と働き手は神様を介することでより強い絆を生んでいたわけです」

 この地方にしか残っていないこの文化を残そう、と芹沢さん達は〈西伊豆しおかつお研究会〉を立ち上げて潮鰹文化を時代につなげようと活動している。潮鰹は2014年にはスローフード協会から〈味の方舟〉に登録された。

「潮鰹は塩分濃度が20%くらいあり、現代の減塩志向にはマッチしません。それでもここにしかない貴重な文化。正しく残していきたいと思っています」

 強烈な塩味だが薄く切ったものを焼いてお茶漬けにしたり、うどんなどに使うと塩味の底に深い旨味が広がる。今では〈しおかつおうどん〉は西伊豆のご当地グルメだ。

研究会が出している『潮かつお燻焼き』そのまま。食べられるが、料理に使っても

 潮カツオはメディアでも多く取りあげられ、地元でも多くの店で味わうことができる。文化遺産を町おこしに使う、というのは珍しくはないが、1000年以上の歴史を持つ食べ物となれば話は別だ。

「研究会が発足した時は神事に使うものをカットして売るのは神様に失礼だ、という批判もありました。しかし、まずは入り口として食べやすくしなければ口にしてもらえませんし、食べてもらわなければ残っていきません。そこで研究会では燻焼きやふりかけといった潮カツオを使った商品を開発しました」