(上)2015年11月、筆者は「オウチごはん」をいただく機会に恵まれた。ご飯と味噌汁に、メインディッシュは豆腐入りハンバーグ。(下)「ごちハウス」の洋室。食卓とテレビがある。学習の場は主にこの洋室。勉強の前後、ユースとボランテイア先生と、みんなで食事をする。ゲームなど楽しみの場となることもある

 2014年4月、坪井さんはJR博多駅前にキッチン、浴室、食卓、ちゃぶ台のある居場所「ごちハウス」を開設した。「ごちハウス」とは、「ごちそうさまが言える家」の略である。無料のごはんを食べに来て、ついでに勉強をしていくこともできる。ボランティアの先生が無料で教える機会に勉強に来て、ついでにごはんを食べていくこともできる。家庭的な雰囲気の和室でゴロゴロすることも、昼寝することも、ときどき泊まることもできる。「ごちハウス」は、そんな居場所だ。

 坪井さんは、「1対1」の関係を大切にしている。初対面のユースを「ごちハウス」に迎えるときは、事前に本人の食べられない食材を聞いておく。その食材が入っていない、本人だけのためのご飯と味噌汁とおかずのある食膳を用意する。そして、ちゃぶ台に横に並んで座り、2人で同じ食事を食べながら、焦らずに信頼関係を築いていく。

 「オウチごはん」と名付けられたこの小さな食事会について、坪井さんは「短い時間で関係性を深めるために、大きな力になります」と言う。世に言う「食べ物の恨みは恐ろしい」も、食べ物・食事が感情に働きかける力ゆえかもしれない。

日常生活を管理し就労を
維持するまでの困難な道のり

「ごちハウス」には、様々な顔と役割がある。県立高校通信制課程のサポート、高認受験準備などの学習支援の場ともなる。看護師や看護学生を囲んで食事をしながら仕事の話を聞く場や、就職のためのスーツ一式の貸し出しなど就労支援の機会も提供される。一定の条件をクリアすれば、泊まることもできる。

 諸般の事情により、ストプロは2017年3月で活動を休止する。「ごちハウス」を必要としているはずのユースたちに、まずは情報を届けることが課題ではあったが、それでも2014年4月の開設以後、48人のユースたちが「ごちハウス」を訪れた。その後、自分の選ぶ自分の人生への小さな歩みを、坪井さんやボランティアたちの伴走のもと、自ら進めたユースたちも少なくない。ちなみに、2009年の無料塾発足から数えると、1回でも関わったユースたちは延べ200人以上となる。

 なお、欠落の多い幼少期・少年期を送らざるを得なかったユースたちの10代後半以後の苦境に対しては、近年、社会の理解が深まりつつある。この状況を受け、東京都世田谷区は2016年度より、独自の住宅支援・生活支援などを提供し、児童養護施設を退所した後の自立生活を支援する制度の実施を開始した。

 また厚生労働省も、2017年度より、児童養護施設の入所年齢を22歳まで引き上げる予定だ。就職するにせよ、大学や専門学校に進学するにせよ、自分の日常生活を自分で管理し、就労を維持するまでの困難な道のりへの社会的支援は、少しずつ充実しつつあるが、まだまだ不十分だ。