「平成の大改造を計画している」――。10年以上も前のことですが、前職で電力業界を担当していたとき、ある原子力発電所でこんな話が密かに進んでいるということをキャッチしました。

 夜回りを重ねて聞き出したのは、原子炉容器の一部から原発の“頭脳”である中央制御室に至るまで、大手術を施すというもの。当時30~40年とされていた原発の寿命を60年にする“延命策”に備えてのことでした。地元住民などの反発が強く原発の新設がままならないなかで、苦肉の策として国が押し進めていたのです。

 違和感を強く覚えたのは、情報開示に対する消極姿勢でした。ことさら、大したことではないと矮小化しようとしたのです。この会社は東京電力ではありませんでしたが、地元やマスコミを刺激しないように、最小限の情報開示に留めるのは電力各社の常套手段。そんな態度が見え見えのため、ますます不信感を強めたものです。

 時は流れて、電力各社の姿勢も、原発事故隠しが世間から厳しく糾弾されたことで、従来よりはオープンになったと聞いていました。しかし、今回の福島第1原発をめぐる東電の初動対応を見ると、依然、閉鎖的な体質は変わっていないと感じざるをえません。1つ1つはあえて触れませんが、本当に当事者意識があるのかとさえ疑ってしまいます。

 今は東電が盾になっていますが、もう1人の“当事者”の存在を忘れてはいけません。経済産業省です。電力事業は規制業種であるため、行政に首根っこを抑えられています。今回の事故原因は、いずれ明らかにされていくはずですが、原子力行政そのものも俎上に乗るでしょう。

 そこで行政が責任を免れるはずはありません。経産省と電力業界に限らず、官と民の関係、官のあり方についてもう一度、ゼロベースから考える時がきています。

 今回の特集では、壊れたものを元通りにする「再建」では、いずれ日本経済は立ち行かなくなるという思いを込めました。少子高齢化、人口減少といった構造問題に直面するなかで、衰退期の入り口に立っていました。

 しかし、大震災を契機に、しがらみやプライド、業界慣習もぶち壊すことで、日本経済を「再興」することができると信じています。省益を守るためだけの規制、監督官庁によるくびきも当然、ぶち壊す対象に入れるべきでしょう。

 被災された方々や企業には、心よりお見舞いを申し上げると共に、一日も早い復興を願って止みません。日本はこれまでも幾多の苦難から立ち上がってきました。大震災はそのどれにも比して厳しいことは承知しています。

 イバラの道は国民すべてが共有し、もう一度、日本を再興するのだという気概が必要です。私たちも雑誌づくりを通して、ささやかながらでもその一助になれれば、と思っています。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 田中 博)