自分が「ラク」だから人を神格化する

―――自分が努力しない限りは絶対に成長はない、という意識がプロへの道を切り開いたわけですね。

中西 じつはプロに入った当初、若干やさぐれ気味になっていたんですよ(笑)。まわりが尋常じゃなく上手くて、なかなか試合に出られなくて。

 そのとき母親が、「アナタはサッカーの才能では負けるかもしれないけど、努力し続ける才能があるから大丈夫」といつも言ってくれて。この言葉には励まされました。多分、僕の高校時代の努力を見てくれていたからそう言えたんでしょうね。

一流アスリートの共通点は「グリット」の能力だ

―――『GRIT やり抜く力』の中でも、子どもの能力をいちばん伸ばすのは、「持って生まれた才能」よりも「努力」をほめることだという話がありました。まさに「やり抜く力」を伸ばすアドバイスに励まされたんですね。そして、Jリーグではあきらめずに自分にできることを探して、中盤のポジションで活躍されるようになりました。

中西 ええ。ただこの本を読んだとき、ちょっと後悔を覚えたところがあったんです。僕は「自分にできることは何か」を考えた結果、中盤でも守備的な役割に徹することが大事だと思ったわけです。「水を運ぶ」というように言われたりもしますが、水汲みをしっかりとして、最後の華やかな部分はエースストライカーにまかせるのがベストだと。

 名古屋グランパス時代、チームにストイコビッチという天才プレイヤーがいました。それもあって、自分は彼みたいな華やかなプレイはできないから地味なことをしっかりやろうと考えたんです。

 でもこの本を読んだとき、「自分がラクだから人を神格化する」という言葉があったんですよ。人のことを指して「彼は天才だ」と言うとき、彼はもともとすごいからしょうがないんだ、自分が負けているのはべつに努力が足りないわけじゃないんだって自分で自分に言い訳をしたいから人を神格化してしまうんだっていう話です。

 その話がすごくグサッと刺さって。ストイコビッチを天才と思うことは、あきらめる行為だったのかもしれないなと。そうじゃなく、もっと自分を磨く努力をすべきだったんじゃないかと悔やんだんです。

(後編は、2月17日更新の予定です)