世界人口の成長率は
急速に低下する

 世界各国の歴史を振り返ると、国が豊かになるにつれ出生率が低下する傾向がうかがえる。経済が発展すると国民が出産制限をするようになる。女性には選択の幅が広がり、親たちも経済的な理由から子供を必要以上に産もうとしなくなり、幼児死亡率のリスクに対する備えとしていた過去のようには、大勢の子供を持とうとはしなくなる傾向がある。

 その結果、国が豊かであればあるほど、女性が一生のうちに産む子供の数は少なくなるのが普通だ。合計特殊出生率(全女性が出産可能年齢の終了まで生存すると仮定した場合の、女性が一生のうちに産む子供の平均数)は、たとえばドイツの場合1.4だが、ニジェール、ソマリア、マリなどの国では6を超える。

 最近の研究では、高所得の国であっても、特に移民の受け入れが多い国では、出生率低下のトレンドを限定的に逆転できることが示されている。たとえば、イギリスでは出生率は1.96ある。他の先進国でも、育児支援や育児期の親の継続勤務支援などの施策を実施すれば限定的な逆転は可能かもしれないが、出生率の低下という長期的トレンドを反転する可能性は少ない。

 30年前には出生率が当時の世代交代を保ち、人口維持に必要な出生率よりも著しく低い国はほんの数えるほどしかなく、そうした国の人口を合計しても、世界人口中わずかな比率にしかならなかった。当時の人口維持出産数は、先進国で女性1人当たり2.1人、発展途上国では2.5人であった。

 高い出生率で人口増加の大半をけん引したのは開発途上国であり、1970年の統計では女性1人当たりの出産数は、メキシコとサウジアラビアでは実に7人であり、それにインド、ブラジル、インドネシアが5人と続いていた。

 低い出生率を抱える多くの先進国では、移民の流入が人口増を生んでいた。1960年代から2012年の間に、総人口に占める移民の子弟の比率は、イギリスで4倍に増加し(3%から12%に)、アメリカでは倍以上に(6%から14%に)、そしてカナダとフランスでは1.5倍に増加した。

 しかしながら、世界的な繁栄の広がりのおかげで、出生率が人口維持水準を下まわる国々の総人口は、2014年までに世界人口のおよそ60%を占めるようになっていた。

 この中には大多数の先進経済諸国が含まれ、それと同時に中国(1.5)、ブラジル(1.8)、ロシア(1.6)、ベトナム(1.8)といった、いくつかの巨大開発途上国も含まれている。

 人口増加の要因である移住者ネット数(国内への流入移民数から国外への流出移民数を引いた数)も、経済規模順位の上位19カ国中、18の国で減少するものと考えられている(唯一の例外がメキシコである)

 2006年に公開された、アルフォンソ・キュアロン監督の反ユートピア的未来を描いた“Children of Men”という映画(邦題『トゥモロー・ワールド』)では、子供の出産は非常に稀な事件となり、奇跡とさえ呼ばれている。現状はそこまで行ってはいないが、ほとんどすべてのヨーロッパ諸国では、出生率は人口維持水準より低い。EU諸国全体を通じて、2040年まではなんとか現在よりも5%人口が増えはするものの、その後減少に転じると予想されている。

 EUの中でも人口増加率が目立って低かったドイツでは(2014年の出生率は1.4)、欧州委員会の予測では、2060年までに今よりも人口が19%減少すると信じられている。

 その結果、2010年には5400万人だったドイツの労働年齢人口は、3600万人になると予想される。

 ドイツはこれまで、ロシア、トルコ、アフリカなど国外からの移民を吸引することで、人口減を目立たなくしてきた。しかし、新たな移民を引き付けられるドイツのような強い経済力や文化的要素を、すべての国が持ち合わせているわけではない。

 出生率の低い多くのヨーロッパ諸国では、外国に成功の機会を求めようと考える若者が増え、大規模な頭脳流出に悩んでいる。ヨーロッパの中でも、バルト海および黒海周辺地域では、人口減少がすでに始まっており、今後何十年かの間にゴーストタウンの集合になりかねない。ブルガリアの人口は2060年までに27%減少すると予想されており、ラトビア、リトアニア、ルーマニアの人口も同程度減少する可能性がある。

 こうしたトレンドの例外がイギリスであり、2060年までにはドイツに追いつき、仮にEUを離脱していなければ、EUで最大の人口を持つ国となっているのかもしれない。これは、祖先がイギリスへの移民であった世帯の出生率が高いことと、今日の比較的高水準な移民の流入のおかげである。

 だが、これはヨーロッパ特有の現象ではない。世界中で人口増の期間が終わり、ピークはもう過ぎたと判断せざるをえなくなる可能性は、アフリカを除きどの大陸にもある。

 1964年から2012年の間の世界人口の年平均成長率は1.4%であったが、今後50年間には年平均0.25%に低下する可能性があり、このトレンドは世界経済と政治に深刻な影響をもたらすだろう。