このような、多様性を欠いた「多様な働き方改革」の矛盾が、僕の周囲ではよく指摘されているが、それが社会的な議論にならないのが不思議だ。多様性の実現には「バイアスの排除」が必要だが、働き方改革も女性活躍推進も、かなりバイアスのかかった議論しかされていない。それこそ、もっと多様な議論があってしかるべきだろう。

 ただ、今回はそのことについては深入りしない。働き方改革にはもっと重要な視点があり、しかもそれについてほとんどなにも議論されていないからだ。少なくとも、社会的な議論にはなっていない。というわけで、今回はそのことをお伝えする。それは「AI時代における働き方改革」の視点であり、議論だ。

AIの影響を受けない仕事は何もない

 AIは間違いなく、人の働き方を変える。それは10年後のことかもしれないし、もしかしたら5年後の話なのかもしれない。それくらい差し迫った問題だし、そうしたパースペクティブがなければ、議論の意味はない。「生産性を上げて長時間労働を減らす」とか言っても、AI時代にはその生産性の概念さえも変わるのだ。たとえば、オートメーション技術が登場して、工場労働者の生産性の意味が変わったように、あるいはコンピュータが登場して知的労働者の能力の意味が変わったように。

 AI革命によって現在の職業の多くがなくなってしまうという話は、皆さんご存じのとおり。以前にも紹介したが、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授も『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか』という論文で、「今後20年間で米国の職業の47%がなくなる」と予測している。しかしこれは、「AI時代にはある仕事がなくなって、ある仕事が生き残る」といった話ではないのだ。現代のインターネットやスマホのように、その影響を受けない仕事は何もない。それがAI時代の正体だ。農業や漁業でさえ、いやむしろ、農業や漁業のほうがAIの影響を大きく受けるだろう。つまり、農家や漁師の仕事が激変する。それは、いまの北欧の漁業が完全にIT化されているのと同様に、AI化される。

 そんな時代に、ビジネスパーソンの生産性の意味も変わるはずなのだが、AIをめぐる議論には誤解や理解不足も多いように感じられる。たとえば、「AI時代に生き残るための技術や、人間がAIに勝てることは、コミュニケーションとクリエイティブだ」とよく言われる。それは間違っているわけではない。しかし、もっと正確に理解する必要がある。

 まず「コミュニケーション」に関してだが、よくいわれるのは「人はマシンとのコミュニケーションより、温もりのある人間同士のコミュニケーションを求める」というもの。だから、いくらAIやロボットが進化しても、人間が提供する温もりや癒やしに対する需要はなくならないという主張だ。しかしそれは、そう主張する人が、人間というものに過大な幻想を抱いているだけの話なのだ。

 たとえば、ソニーが1999年に発売したペットロボットのAIBOは、2014年にサポートが打ち切られ、壊れても修理ができなくなった。よってその飼い主たちは、亡くなったAIBOをまるで本物の犬や猫のように葬儀を出していたりする。あるいは、バーチャルアイドルの初音ミクもそう。2011年のアメリカ・ロサンゼルスでのライブには5000人を、2012年の日本のライブでは4日間で1万人を動員した。また、ファン同士の交流を兼ねた複合イベントではあるが、2013年には横浜アリーナでライブが開かれ、今年は9月に幕張メッセで3日間のイベントを開催するという。