公平性の担保のために重要なのは
「わかっていてもやめられない人」を後押しすること
現行の使用単価のままで善意の節電を呼び掛けても、多くの善意の市民と善意の企業経営者は協力してくれるでしょう。しかし、一方で自己中心的に電力の使用を節約しない人たちも世の中にはいます。震災直後に自粛の呼びかけにもかかわらず不要不急の買占めを続けた人たちのことを思い出してみてください。
また節電が呼び掛けられていて、その必要性はわかっているのに、ついこれまでのように電気を使ってしまうという人も少なくないはずです。人間というのは、わかっていても合理的な行動をとれないものです。このため不要不急の電力使用は、今でも相当あると思われます。現在一般家庭に求められている夏のピーク時の需要抑制は、実は1980年代後半のバブル期の利用水準にまで電力利用を抑えることです。当時と比べて人口は増えておらず、電力利用の必要性が増えたとは言えないでしょう。当時の電力利用が生活に困るほど抑制されていたわけでもありません。20年あまりの間にクーラーをはじめ便利な電化製品が増えて、本来使わなくてもなんとかなる電力消費を増やしてしまったのです。
実際、日本エネルギー経済研究所は、東京電力管内の一般家庭のすべてがピーク時にこまめな節電を行えば、政府が目標としている節電は十分に可能であるという試算をしています。
善意による節電を呼び掛けるのに加えて、それをすると得をする仕組みを用意することで、「わかっていてもやめられない人」を制度的に後押ししてあげることが重要なのです。
自己中心的な人や行動を変えられない人たちが必要以上に涼しい部屋で快適な生活を続けているために、公徳心と意志の強い真面目な人たちが余計に厳しい節減をしなければならないのは明らかに不公平であり、それを許す仕組みは正されるべきでしょう。
節電への協力を呼び掛けると同時に、その協力が報われるような仕組みを作ること。これこそが今求められていることだと考えます。
後編となる次回は、最大の問題である、「ではどのくらい値上げするのが正しいのか」について、「国民の感情」を踏まえてさらに踏み込んだ提言を述べます。
1971年北海道生まれ。
1994年横浜国立大学経済学部卒業。1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程満期退学。1999年上智大学経済学部専任教員。2000年経済学博士(東京大学)。
現在、上智大学経済学部教授、行動経済学会理事。
著書に、『ゲーム理論の思考法』『図解 よくわかる行動経済学―「不合理行動」とのつきあい方』『経済学で使う微分入門』などがある。