値上げしないことこそ不公平を生む
なぜ「電気料金の値上げ」が必要なのか?

 一方で多くの経済学者が提案している対策は「電力使用の料金単価を引き上げる」というものです(注2)。電気代の負担が増えることは、多くの人にとって好ましくないものと聞こえるかもしれません。ですが、最も自然で最も効率的なのが、この方法なのです。このことを理解するカギは、需要と供給の考え方にあります。

 野菜やコメを例に考えてみましょう。供給が不足すれば、それらの価格があがるのは当たり前のことです。それによって、それほど必要のない人は買わなくなり、どうしても必要な人が買うようになり、限られた資源が本当に必要としている人のところに届くという仕組みです。

 もちろん、この方法にも問題点があります。現在、世界全体として穀物の供給不足が生じ穀物価格が上昇したために、途上国の人たちが穀物を買うことができずに飢餓に瀕しています。つまり、価格による調整の問題は、貧しい人たちが深刻な負担を負うことになってしまうことです。この貧しい人たちへのシワ寄せの問題を解消する必要がありますが、後で述べるようにそれは可能です。

 市場で価格が決まる野菜やコメなどの場合には価格が上がるのが当たり前なのに、電力の供給不足が生じても価格が上がらないのは、電力が東京電力によって独占的に供給され、東京電力が価格を決めているからです。

 供給が足りないのに価格が低いままだと、すべての需要を満たせません。そのため、「買いたいのに買えない」という問題が必ず起こります。震災直後に起きたガソリンスタンドやスーパーの前の行列を思い出してください。多くの人が「買いたいのに買えない」という経験をしたことでしょう。もしも、ガソリンやパン、牛乳の価格が供給不足を反映してすぐに値上がりしていたならば、行列は雲散霧消していたことでしょう。本当に必要な人が買い、そうでない人は我慢するという望ましい行動を、最も自然な形で引き出すことができたはずです。

 計画停電で困っている人たちも、まさに「買いたいのに買えない」人たちです。そして、この夏に電力使用の節減を強制される大口の需要者たちも「買いたいのに買えない」ことになります。

 このような事態は何としても避けなければならない。これが経済学者たちの思いなのです。

(注2)電気料金を引き上げる代わりに、引き上げ分に相当する税を課すという代替案もありますが、税金を時間によって変更するということは税法上困難ではないかと野口悠紀雄教授は指摘されています(ダイヤモンド・オンライン「未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか」第7回)。