値上げの議論に立ちはだかる
「2つの問題」
しかし、電力使用の料金単価を上昇させるという経済学者の提案は、これまでのところほとんど受け入れられていないように思います。経済学的な考えに最も理解のある日本経済新聞朝刊の社説(3月23日)でさえも、「使用単価の引き上げは最後の手段とすべき」と述べています。
なぜこのようなギャップがあるのでしょうか。理由は色々あると思いますが、私は大きく分けて2つの問題があると思います。
一つは負担増への懸念です。たとえば1kwhの単価が20円だったものを2倍の40円にすれば、節電をまったくしない場合には基本料金を除く電気代が2倍に増えてしまいます。節電をしたとしても電気代の負担はおそらく増えるでしょう。しかも、独占企業である東京電力が電気を供給しているので、消費者の負担増はそのまま東京電力の収入増になります。このことを受け入れられないと思う国民は少なくないようです。東京電力は3月25日に、夏の電力需要のピーク時間帯に、電力料金を値上げする案を公表しましたが、消費者などからの多くの抗議を受け、その後は料金の値上げについて触れることはなくなってしまいました。
二つめの問題は、貧しい人たちへのシワ寄せの問題です。価格が上がっても真っ先に電力消費を抑制せざるを得なくなるのは、費用負担ができない貧しい人たちになるという指摘です。
「感情の問題」は避けて通るべきではない!
正しい行いが報われるための「キャッシュバック制」
一見解決するのが困難に見える「2つの問題」ですが、実は次のような方法を用いれば解消することは可能です。
電力使用単価の引き上げによる東京電力の収入増加分を、消費者に均等にキャッシュバック(還元)するという方法です。キャッシュバックされるお金は、電力の消費量とは無関係に、消費者全体に均等に分配するというのがポイントです。
このような方法をとれば単価引き上げに伴う消費者の追加的な負担総額は0円になります。つまり、全体としては負担が増えないのです。もちろん、反感の大部分を占めている東京電力の収入も増えません。
そして、貧しい人へのシワ寄せがなくなります。この方法では単価引き上げの負担は電力消費に比例しますが、キャッシュバックは電力消費と無関係です。したがって、電力消費が多い人は実質的に負担増になるのに対し、平均よりも電力消費の少ない人は逆に負担減になります。相対的に所得の低い人は、同様に電力消費も少ないでしょうから、この方法であればシワ寄せがなくなります。
電力使用単価を上げることが望ましいのは、それによって自発的な節約を引き出せることです。単価が上がっているので電力使用を減らせば減らすほど消費者の負担は大きく減ります。単価が2倍になれば、同じ1kwhの使用節減で2倍の節約になります。電力不足に貢献している人ほど報われるような仕組みなのです。