なぜ、電気使用料の上昇だけでは節電に結びつかないのか?
――価格の「見える化」が自発的な節減を加速する!
震災によって電力供給量が大幅に落ち込む中、東京電力管内における夏季の電力不足が問題となっています。果たして大規模停電を防ぐ手立てはあるのでしょうか。本稿では、上智大学経済学部教授、川西諭氏による、経済学、そして人間心理を踏まえた行動経済学の知見を用いた政策提言を紹介します。
後編となる今回は、最大の問題である「では、どのくらい値上げするのが正しいのか」について議論していきます。電気料金の「見える化」など、行動経済学の知見も利用した方策を実施すれば、現在想定されているよりも少ない上昇幅に抑えられることを示します。(前回の記事はこちら)
電気料金3.5倍は妥当か?
感情に留意すれば上昇幅は抑えられる
前回の記事では、計画停電、政府案である「一律25%節減」案、経済学者が提唱している「電気料金の値上げ」による需要と供給の調節案を順に検討し、より公平な案が「値上げ」であることを示してきました。その際、感情を踏まえた議論を避けて通れないことも合わせて指摘し、「キャッシュバック制」の導入により、値上げはより公平で効果的なものとなることを述べました。
値上げに際して大きな問題となるのは、「では、価格をどれだけあげなければならないのか」という点です。この点についての推定は人によってまちまちで、たとえば経済学者の野口悠紀雄先生は、単価を3.5倍にする必要があるかもしれないと指摘しています。
しかし上昇幅について、私はそれほど高くならないのではないかと考えています。3.5倍という数字は「電力消費が料金の値上げに対してそれほど反応しない」という過去の研究結果に基づいているのですが、今回は比較的小さい値上げでも大きな効果をあげられる理由が少なくとも4つあります。これも、国民感情の理解が一つのポイントとなります。以下、順に見ていきましょう。