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米国の格付け会社が米国債の格付け見直しをするはずがない──という“定説” が破られた。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は4月18日、財政悪化とその改善に向けた政治合意が得られそうにないことを理由に、現在AAAの米国債の格付け見通しを安定的からネガティブ(弱含み)にすると発表した。同社の米国債の見通し引き下げは初めてである。
米国の財政は急速に悪化している。2011年度(10年10月~11年9月)の赤字幅は1兆6450億ドルと3年連続で1兆ドルを超え、対GDP比は10%を超える。これはAAAである他国の水準、ドイツ0.3%、フランス3.5%、英国5.1%と比べて明らかに悪い。政府純債務の対GDP比も07年度の37%から11年度には74%にまで倍増する見込みだ。
米国にとって財政赤字削減は待ったなしのはずである。しかし、オバマ政権・民主党と共和党の対立が続き、赤字削減に向けた展望は開けていない。
債務上限枠の引き上げについて、共和党の反対で成立のメドは立っていない。夏までに成立しないと、国債が発行できず政府の資金繰りが行き詰まる恐れがある。
オバマ大統領は13日に23年度までの財政再建計画案を発表した。1月の11年度予算教書発表時に21年度までで1兆ドルとしていた赤字削減幅を4兆ドルに引き上げた。削減の中身は富裕層向け所得税などの増税で1兆ドル、国防費、医療費などの歳出削減で3兆ドル。
これに対して、共和党は5兆8000億ドルの歳出削減と個人・法人向けの1兆ドル強の減税などを打ち出した。4兆4000億㌦に上る歳出削減幅の差、増税と減税という正反対の施策。両者の隔たりのあまりの大きさに、S&Pも“定説” を破らざるをえなかったのだろう。
S&Pは13年までに財政再建に向けた道筋が示されない可能性が高いと見ており、財政赤字削減の合意が得られない、または財政状態がさらに悪化した場合には格付けを引き下げる可能性があるとしている。現在の両党の削減案の隔たりの大きさを考えれば、格下げされる確率は決して低くないだろう。
もっとも、見通し引き下げが財政再建への取り組みを進展させると見た市場は、今のところ落ち着いている。発表当日の18日、19日と2日連続で長期金利の指標である米国の10年国債利回りは低下(価格は上昇)した。
しかし、財政赤字削減に向けた協議が進展せず格下げを招くような事態となれば、国債の信認低下から債券利回りは上昇し、ドルが売られるだろう。長期金利上昇による景気悪化懸念から株価も下落するトリプル安となる公算は小さくない。オバマ政権、共和党双方に、自らの施策にこだわり続けている余裕などないはずである。
(「週刊ダイヤモンド」副編集長 竹田孝洋)